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軽蔑しますよ 

5121小隊の初陣は、阿蘇特別戦区においてであった。
何が悲しゅうて、熊本最激戦区にいきなり放り込まれにゃならんのか。そんな気がしないでもなかったが、文句を言っても始まらない。
四人の新米パイロットたちは、圧倒的に不利な状況下にあって善戦していた。そりゃあもう、必死で戦った。命掛かってるし。
おかげで、とても初陣とは思えない華々しい戦果が築かれつつある。彼らは、それが出来るだけの力を秘めていたのだ。
そのことを見抜いた善行忠孝、やはりただのヒゲ眼鏡の脛毛野郎ではない。
ややあって、善行は傍らの瀬戸口にマイクを要求する。
「頃合いだな。マイクを」
「はっ!」
このオッサン、やるな。などと思っていた瀬戸口、恭しくマイクを差し出す。
満足そうにマイクを受け取った善行は、思い描いていた言葉を小隊に通達する。
「5121小隊、司令善行。前線から2km後方で、阿蘇おさるの里のおさるさんが逃げ送れている。時間を稼ぐ必要がある。全軍突撃。ガンパレード。最後の一人まで悉く敵と戦って死ね。持っている全ての戦術を駆使しろ」
瀬戸口、目が点。
「……マジかい」
善行、大真面目で頷きつつも、モニターに映し出されたおさるさんの映像を見て緩む頬を抑え切れない様子。
「もちろんです。兵には、国家とか、英雄とか、弱者とか、己の命をかけるにたるモノが要ります。それは例えば、おさるの里のおさるさんでもいい……それがなければ、死ねません」
そんなモンの為に死を強要される兵こそ哀れではある。
「……俺は、あなたのことを死ぬまで軽蔑しますよ」
「結構。そういうことには、慣れている」
瀬戸口の100パーセント本気っぽい侮蔑の言葉にも動じることなく、善行はおさるさんと一緒に撮った写真――たぶんおさるの里に行ったときのものだろう――をやさしい視線で眺めつつ、そう答えた。
「聞いたか! 全軍突撃! おさるさんを守れ!」
若宮、頭を抱えつつ命令を復唱。それが務めとわかってはいても、新兵たちにはあまりに酷だ。
「……なあ、俺たちの命って、何だ?」
あまりにもごもっともな滝川の言葉に、舞は憮然として言い返す。
「たわけ。非常に腹立たしいことに、我らに選択肢などない。厚志、やるぞ」
「壬生屋未央、いきます! 納得はいきませんがっ!」
壬生屋に到っては、既にヤケになっている模様。
ま、気持ちはわからんでもない。
この後の戦闘を振り返り、後に来須銀河は述べている――バーサーカーの怖さを思い知った、と
まあ、あれやこれやで戦闘終了。
結果は大勝。
「ご苦労、諸君らの働きでおさるさんは救出された。我々の勝利だ。撤退する」
実に満足げな善行の、労いの言葉。
しかし、それを掛けられたパイロットたちの心中は複雑であった。
「……ああ、そうですかい。そら、ようござんしたねぇ」
「……聞いた?」
「……聞いておる」
「やっちゃいましたね、私たち……」
エテ公を守り抜いてしまったことを、喜んでいいのやら嘆いていいのやら。
「初陣にしては、見事だと言っておこう。指揮官として、嬉しく思う。以上」
善行の声のバックに、ウキーウキーとかいう感じのおさるさんの声が混じっているのは気のせいか。
「ああ、やったやった、わーいわーい」
もう、心の底からどーでもいいような口調で速水は喜びを表した。
「次からが、大変ですね」
阿蘇おさるの里から駆け付けたおさるさんと戯れる善行を見やりつつ、若宮は憮然とした顔でそう言った。
「……そうですね。明日から」
それは善行忠孝、君が悪いと思う。
全面的に。