撤退する

新型

概ねにおいて、戦争が左前になってまいりますと「なんじゃこりゃ?」的な非常に夢のある新兵器が企画されたり開発されたりするもんでございます。
ドイツ第三帝国然り、大日本帝国然り、よくもまあ寝惚けたことを、と言いたくなるモノもしばしば。
一騎当千の精鋭に驚天動地の新兵器を与えれば、いかなる難局も打開できると本気で思っている御仁は後を絶たないようで。
戦争ってぇのは、そんな簡単なモンじゃないんスけどねぇ……
ま、その辺の議論はともかくとして、どこの世界にも精鋭部隊神話と新兵器神話は尽きないもんでして。
幻獣と果て無き戦いを繰り広げる精鋭部隊、我らが5121小隊の元にも新型が配備されたようですよ。
ちょっくら覗いてみましょうかね。


CASE1『筋魂号・到着』
「これが新型か」
本田は、唸るように呟いた。
その姿に見とれる芳野が、嘆息するように言う。
「きれい……ビルダーさんみたい」
新型の人型戦車は、全身これ人工筋肉の塊といった塩梅の威容で屹立していた。
「装甲を施す暇もなかったのか……いや、要らないと判断したんだな」
本田の言葉に答えるように、人型戦車の暑苦しいくらい立派な大胸筋が、ピクリ、と揺れた。
「動いた!」
「こいつは自力でもポージングをとれますよ。人はトレーナーに回ります」
若宮専用人型戦車『スピリット・オブ・マッスル』がハンガーに入った。
心ある者の手により即刻廃棄されたのは言うまでもない。

CASE2『鶏魂号・到着』
「これが新型か」
本田は、唸るように呟いた。
その姿に見とれる芳野が、嘆息するように言う。
「きれい……ガキンチョみたい」
新型の人型戦車は、おっかなびっくりといった塩梅で二人の様子を窺っていた。
「武装を施す暇もなかったのか……いや、要らないと判断したんだな」
本田の言葉に答えるように、人型戦車は怯えるように、ビクリ、と腰が引けた。
「動いた!」
「こいつは自力でも逃亡できますよ。人はお小言に回ります」
滝川専用人型戦車『スピリット・オブ・チキン』がハンガーに入った。
戦場で欠片ほども役に立たないため即刻廃棄されたのは言うまでもない。

CASE3『腐魂号・到着』
「これが新型か」
本田は、唸るように呟いた。
その姿に見とれる芳野が、嘆息するように言う。
「きれい……大和撫子みたい」
新型の人型戦車は、凛とした調子で立っていたが、脚部が赤い袴っぽいあたり不安を拭えなかった。
「良識を施す暇もなかったのか……いや、要らないと判断したんだな」
本田の言葉に答えるように、人型戦車はハンガーの外でスキンシップをとっている瀬戸口と速水を見やり頬を染めた。
「動いた!」
「こいつは自力でも妄想できますよ。人はボーイズ・ラブ本を与えます」
壬生屋専用人型戦車『スピリット・オブ・ヲトメ』がハンガーに入った。
瀬戸口により即刻廃棄されたのは言うまでもない。

CASE4『色魂号・到着』
「これが新型か」
本田は、唸るように呟いた。
その姿に見とれる芳野が、嘆息するように言う。
「きれい……美少年みたい」
新型の人型戦車は、なんだかえらく軽薄そうに立っていた。
「節操を施す暇もなかったのか……いや、要らないと判断したんだな」
本田の言葉に答えるように、人型戦車は傍らの三番機とスキンシップをとり始めた。
「動いた!」
「こいつは自力でも口説けますよ。人は紹介に回ります」
瀬戸口専用人型戦車『スピリット・オブ・ジゴロ』がハンガーに入った。
壬生屋により即刻廃棄されたのは言うまでもない。

CASE5『芸魂号・到着』
「これが新型か」
本田は、唸るように呟いた。
その姿に見とれる芳野が、嘆息するように言う。
「きれい……漫才師みたい」
新型の人型戦車は、どういうわけかハリセンを装備していた。
「修行を施す暇もなかったのか……いや、要らないと判断したんだな」
本田の言葉に答えるように、人型戦車は傍らの二番機に鋭くハリセンを振るった。
「動いた!」
「こいつは自力でもツッコミを入れますよ。人はボケ役に回ります」
加藤専用人型戦車『スピリット・オブ・ナンバ』がハンガーに入った。
幻獣にボケ役がいるわけもなく即刻廃棄されたのは言うまでもない。

CASE6『愚魂号・到着』
「これが新型か」
本田は、唸るように呟いた。
その姿に見とれる芳野が、嘆息するように言う。
「きれい……マッドサイエンティストみたい」
新型の人型戦車は、どこかでみたような改造白衣に包まれていた。
「常識を施す暇もなかったのか……いや、要らないと判断したんだな」
本田の言葉に答えるように、人型戦車はクネクネと腰を回し踊り始めた。
「動いた!」
「こいつは自力でもギャグしますよ。人は相方に回ります」
岩田専用人型戦車『スピリット・オブ・デンパ』がハンガーに入った。
常識人により即刻廃棄されたのは言うまでもない。

CASE7『靴下魂号・到着』
「これが新型か」
本田は、唸るように呟いた。
その姿に見とれる芳野が、嘆息するように言う。
「きれい……お相撲さんみたい」
新型の人型戦車は、それは立派な太鼓腹を誇示するように突っ立ていた。
「減量を施す暇もなかったのか……いや、要らないと判断したんだな」
本田の言葉に答えるように、人型戦車は向こうの方を歩いている善行(の主に足もとの辺り)に鋭い視線を送った。
「動いた!」
「こいつは自力でも靴下を狩れますよ。人は協会に回ります」
中村専用人型戦車『スピリット・オブ・ソックス』がハンガーに入った。
風紀委員により即刻廃棄されたのは言うまでもない。

CASE8『嫉妬魂号・到着』
「これが新型か」
本田は、唸るように呟いた。
その姿に見とれる芳野が、嘆息するように言う。
「きれい……お姉さまみたい」
新型の人型戦車は、どことなく艶然とした笑みを湛えつつ立っているような気がした。
「自制心を施す暇もなかったのか……いや、要らないと判断したんだな」
本田の言葉に答えるように、人型戦車は三番機に抱き付き背中から刺した。
「動いた!」
「こいつは自力でも刺せますよ。人は刃物を与えます」
原専用人型戦車『スピリット・オブ・ジェラシー』がハンガーに入った。
危険を感じた善行により即刻廃棄されたのは言うまでもない。

CASE9『小鹿魂号・到着』
「これが新型か」
本田は、唸るように呟いた。
その姿に見とれる芳野が、嘆息するように言う。
「きれい……お嫁さんみたい」
新型の人型戦車は、ぼややんと立ち尽くしていた。
「化粧を施す暇もなかったのか……いや、要らないと判断したんだな」
本田の言葉に答えるように、人型戦車はニッコリ微笑みつつサンドイッチを差し出した。
「動いた!」
「こいつは自力でも家事ができますよ。人は旦那役に回ります」
速水専用人型戦車『スピリット・オブ・バンビ』がハンガーに入った。
割と役に立ったので今でも小隊の台所を預かっている。


やれやれ。
やっぱり、新型ってぇ言っても、なかなか思うようにはいかねぇようですなぁ。
おや?
あそこで話してンのは、善行君と本田教諭じゃありやせんか。
いったい、何事なんでしょ?


「……どうする気だ?」
「この戦争に、勝ちます。中央に戻って、人事を刷新して、人事を刷新して、それから、ええと、特に技術部の、人事を刷新して……」


これも、災い転じて、ってぇヤツですかねぇ?


WSOPさんに出そうかと思いつつ、ちと気に食わなかったんで却下。
ありがちなネタだし。