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プレミッション&ブリーフィング

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・んぐ」
荒い息を抑えようと、オレは唾を飲み込んだ。
もう、だめかもしれない。
つい先刻まで共に隠れていたレミィは、俺の盾になって銃弾の波に飲まれた。
あれだけ騒いでいた志保も、今はもういない。
あかりに至っては、とうの昔に倒れている。
つまり、オレは一人だってことだ。
傍らのステアーAUGアサルトライフルの弾は、先ほど撃ち尽くした。
今頼りに出来るのは、右手に握られたイングラムM11マシンピストル一丁だけ。

かさり・・・・

オレの右手前方、草が微かな抗議の音を立てる。
(来たっ!)
相手の正体は分からないが、コイツを倒せば活路が開けるかもしれない。
あるいは、ここはやり過ごしてこの場を離れるか。
(倒すしかないっ!)
どのみち、もう逃げる先など残されていないのだ。
やってやる。
意を決して隠れていた草むらから身を乗り出そうとしたその時。
「フ、フリーズッ!動かないでください、先輩」
なんだか申し訳なさそうに、葵ちゃんのフリーズコールが聞こえた。
無論、オレの背後から。
「ちっくしょぉ〜〜!3タテ喰らったぁ」
叫びつつ、オレはイングラムを放り出した。
「あまいわね〜浩之。私たちから、逃げられるわけないでしょ?」
ケラケラ笑いながら前方のブッシュから顔を出す綾香。
リーフパターンの迷彩服に、M16改パトリオットというマニアな銃を携えての御登場だ。
「す、すみません!先輩」
と頭を下げる葵ちゃんも綾香と同じ迷彩服にCAR−15カービン銃。
「いいって、いいって、勝負は時の運だしな」
オレは、傍らに転がる愛銃ステアーAUGミリタリーを拾いつつ、そう答えておいた。
本当は、すんっげーくやしい。
「実力の差じゃないの〜?」
嬉しそうにそうのたまう綾香を見ていると、特に。

 

 

安全地帯(墓場とも言う)に戻ると、既に倒されていた連中が話に花を咲かせていた。
オレがゲットしたマルチ、俺より先にゲットされたレミィ、志保、あかりの、合計4人。
全員迷彩服を着込み、傍らには各々の銃を置いている。
マルチはMP5KA4PDW。小型サブマシンガンのクルツに折畳式のストックを付けたやつだ。
レミィは、アサルトライフルの定番M−16A2。A1VNじゃないのは幸いだ。レミィがヴェトナムバージョン持って『レッツ、ハンティ〜ング』なんて言うと、ベト○ン狩りかと思っちまうからな。
志保は、最新型のUZI−SMG。イスラエルが誇るサブマシンガンの名作だ。コイツが、結構いい性能だったりする。取り回しも容易で、動き回る志保にはぴったりの銃だ。
あかりは、オレのお下がりのFA−MAS(5.56F1)。極端な連射性能がウリの銃だ。オレとしてはスタイリッシュで結構お気に入りだし、悪い銃ではないんだが・・・・ま、あかりの場合どんな銃を持ってもいっしょって気がするな。
「フラグの近くまでは行ったんだけどねぇ〜。ホンット、惜しかったわ」
身振り手振りを交えつつ大仰に言う志保。
3連敗の直後ということもあり、ついつい余計な一言を口にしてしまう。
「おめーの場合、うまく包囲網に引きずり込まれただけじゃねぇのか?」
「なぁによ!ヒロなんか、延々アンブッシュして出てこなかっただけじゃない」
「アンブッシュは基本だ!へろへろ動き回る、てめーの方が迂闊だってーの」
「うっきぃーーーっ!」
「まあまあ、二人とも・・・・」
あかりがなだめにかかるが。
「あかり!あんたも、も少しチャッチャとうごきまわんなきゃダメよ!」
「おめーの場合は、迂闊云々以前の問題だぞ!」
「うっ・・・・ごめん」
今のオレたちが、耳を貸すはずもなかった。
そこへ、やはり迷彩服に身を包んだ芹香センパイと、旧日本軍の野戦服が異常に似合うセバスチャンが帰ってきた。
ちなみに、センパイの銃はMP5KA4(クルツ)サブマシンガン。
その小ささから、取扱の容易さには定評があるウェポンだ。
セバスチャンが手にしているのは、M−60マシンガン。
総重量5Kg超のデカブツ、分隊支援火器ってヤツだ。
これを片手で軽々とぶん回すんだから、ある意味この爺さん始末におえない。
ま、体がデカイぶん被弾率も高いのと、常にセンパイのガードに入っていて決して攻めてこないのが救いか。
「おかえり、姉さん。しかし、浩之たち見てると次のミッションが思いやられるわね〜」
次のミッション。
すなわち、オレたちToHeart旅団と痕私兵団&雫小隊連合軍との勝負のことである。
「次は、好恵さんも参加できるんですよね?」
葵ちゃんの問いかけに、綾香は短くうなずいた。
「OKって行ってたわよ。あとは・・・・」
「委員長も大丈夫だって言ってたな。雅史は試合でダメらしいぜ」
綾香の後を受け、指折り数えつつミッション当日の参加人数を確認するオレ。
「2人足りねぇなぁ。向こうが全部来たとすると」
「ま、何とかなるんじゃない?この人数なら」
「しかし、相手はコーイチさんたちだぜ?祐介も、キャリアが長い分バカにできねぇし」
「助っ人に声はかけてみるけどねぇ。こればっかしは」
答えながら、綾香は肩を竦めた。
ま、確かにサバイバル・ゲームはあんまし一般的な休日の過ごし方ではあんめぇ。

 

 

なぜ、オレたちがサバイバル・ゲームなどというモノにハマッてしまったか、説明を加えておこう。
コトの発端は、降山で知り合った長瀬祐介との会話だった。
何の気なしに、レミィの『ハンティング禁断症状』のことを話したところ、祐介が異常な興味を示したのだ。
「それなら、サバイバル・ゲームなんてどうかな?きっとストレス解消にもなるし、すごく面白いんだ」
あまりに強く勧める祐介の迫力に押されて(まあ、普段大人しい、っつーか暗い祐介がここまで熱を入れてるモンの正体見たさ、ってのもあるが)、オレはレミィを連れて一度祐介たちのミッションに参加することにした。
で、やってみると。
これが、面白かったりする。
その日は、装備一式貸してもらった上で、祐介、沙織ちゃん、瑞穂ちゃん、太田さん、月島兄妹の6人の中に混ぜてもらい、4対4の皆殺し戦やフラッグ戦を楽しんだ。
まあ、戦果は推して知るべし、オレたちは散々負け続けたんだが。
BB弾をバラ撒く快感もあったし(トリガーハッピーとでもなんとでも呼んでくれぃ)、なにより、結構いろんな戦術を駆使して一矢報いたときの爽快感はたまらなかった。
レミィも満足してたし。
その帰りに、オレとレミィが電動エアガンと装備一式を買い込んだのは言うまでもない。
その後、そもそもこの手の遊びが好きな志保を引き込み、渋るあかりをムリヤリ組み入れ、当然雅史にも付き合わせ、次々に仲間を増やしていった。
委員長など最初は小馬鹿にしつつ渋っていたくせに、いざ戦場に出てみると持ち前の負けん気の強さを発揮、今ではオレやレミィ以上にどっぷりハマッっている。
来栖川姉妹の参入は大きかった。
何の気なしにセンパイを誘ったら、当然セバスが付いてきた。
ついでに綾香もやってきた。
そこから葵ちゃん、坂下(委員長とほぼ同様の症状を示した)、長瀬主任、マルチ&セリオと、イモヅル式に人数が膨れて現在に至る。
来栖川翁も三八式小銃片手に参加を検討しているというウワサもあるが、それが本当なら日本の経済界ももうダメかもしれん。
まあ、それはともかくとして、オレたちToHeart旅団は、日夜サバイバル・ゲームに奮戦している。
我ながら、どうでもいいことにかける情熱と行動力は並大抵ではない。

 

 

そんなこんなで、ミッション当日。
「やあ、浩之。久しぶり」
現地に到着するなり、既に野戦服に着替えている祐介が出迎えてくれた。
肩にかけているのは・・・・
「うおっ!64式小銃!?お前、ステアーじゃなかったのか」
自衛隊の旧制式採用銃だ。
「うん。ステアーは浩之が使ってるからね」
「ああ〜、お前はブルパップ仲間だと思ってたのになぁ」
ブルパップ・・・・ストックの中までバレル(銃身)が通ってて、マガジンがトリガー、グリップの後ろに付いてるタイプの長銃だ。
分かりにくけりゃ、エヴァのパレットガンを思い浮かべねぇ。
余計分からん?
そりゃ失礼・・・・。
オレの知り合いの銃では、ブルパップはオレのステアーAUGミリタリー、祐介のステアーAUGスペシャルレシーバー、あかりのFA−MAS5.56F1、沙織ちゃんのFA−MASスーパーバージョンの4丁しかない。うち、あかりと沙織ちゃんのはそれぞれオレ、祐介のお下がり。
純粋にブルパップを「買った」のは、オレと祐介だけってことになる。
ブルパップ好きのオレとしては、なんともさびしい限りなのだ。
まあ、ブルパップ銃自体、ステアーAUGとFA−MASの2種類しかラインナップされてないんだから、しゃーないのかもしれんが。
「ブルパップも好きだけどね」
祐介は、64式をやおら手に抱えると頬擦りをはじめた。
「ふんだんに金属パーツを使ったこの重厚感、ひんやりと肌になじむこの冷たさ。さすがに値が張るだけのことはあるよ。やっぱり、エアガンもリアリティを追求する時代に来てるよね」
すりすり。
・・・・あぶねーヤツ。
と、思っていると、横から叫ぶ人物がひとり。
「いや、まだまだだな長瀬君。エアガンは、ボルトアクションに始まりボルトアクションに終わるんだよ。見たまえ、このAPS−2の勇姿を!」
祐介のセンパイの月島拓也だ。
オレは、大抵「月島兄」と呼んでいる。
もちろん、妹の瑠璃子の方は「月島妹」だ。
「黒光りするこの長身、極限まで磨き抜かれた静粛性、これが機能美というものだよ、長瀬君」
すりすり。
・・・・あぶねーヤツ。
祐介も月島兄も、別に悪いやつではないんだが。
ちょっとイッちまってるんだよなぁ・・・・。
「と、ところでよ、コーイチさんたちは?」
とりあえず話題の転換を図るオレ。
「ああ、向こうでホップ調整してるよ」
「んじゃ、挨拶してくるわ。またあとでな」
オレは、そそくさとその場を後にした。
いくらなんでも、あいつらみたいになるのはヤバいって。
だいたい、リアリティっていやステアーだし、機能美ってんならブルパップだろ、まったく。<ふつう、こういうヤツを同じ穴のムジナという。

今回バトルの舞台となるフィールドは、来栖川家が所有する山のひとつだ。
元々はキジ撃ちかなんかのために持っていた土地らしいが、センパイたちの祖父である来栖川翁がトシを食っちまってからは半ば放置状態だったそうだ。
おかげで、いい具合にブッシュが茂っていて格好のサバゲーフィールドになっている。
そう言う経緯のある土地であるから、駐車場はおろかシューティングレンジまであったりするのだ。
来栖川財閥恐るべし。
せっかくあるシューティングレンジを利用しないテはない、ってことで、ホップ(BB弾に上方向の回転をかけて飛距離を伸ばす仕組み)の調節なんかをやるのが、ここに来た時の慣例になっている。
愛銃のステアー片手にそのシューティングレンジに近づくと、パスッ、パスッ、と小気味良い(エアガンの)銃声が響いていた。
「ちわーっす。お久しぶりッス、コーイチさん」
「おう、来たか浩之」
応えるコーイチさんの手には、G3A3アサルトライフルが握られている。
手前では初音ちゃんがMC−51のマガジンを装着してるところだった。
そこから近い順に、千鶴さんのG3A3、梓さんのG3A4、楓ちゃんのG3SG1、少々間をおいて柳川さんのG3A3が快音を響かせている。
ドイツが誇る高性能長銃G3シリーズで統一された、痕私兵団の面々である。
おや?
ひとり見慣れないオッサンがいるなぁ。
「一番奥のヒトは誰ッスか?」
「ああ、柳川の上司で長瀬さんってんだ」
「長瀬?祐介の親戚・・・・にしちゃ、顔立ちがだいぶ違うなぁ」
「はは、どっかで血がつながってるかもしれんがなぁ」
バカな話をしてると、自分が話題にされていると察したのか、長瀬のオッサンが近づいてきた。
エモノはPSG−1狙撃銃だ。
「やあ、どうもどうも」
「はじめまして。ToHeart旅団の藤田浩之ッス」
「こりゃどうもご丁寧に。私は、長瀬源三郎・・・・と、紹介は柏木くんからしてもらったか」
そう言って、ははは、と気合の抜けた笑いを漏らす。
・・・・こりゃ、このオッサン曲者っぽいな。
持ってる銃といい、しれっと長距離狙撃してくるタイプじゃねーのかな。
「いや、部下の柳川から話を聞きましてね。まあ、あの男は真面目というか無趣味というか、とにかく遊びとは縁のないヤツなんですがねぇ。これが、ここのところ熱心に打ち込んでいるホビーがあるって言うじゃないですか。どんなもんだろうと、私も興味が沸きましてねぇ・・・・」
「よ、よろしくお願いします!」
この話術に巻き込まれてはイケナイ。
なんとなくそんな気がしたので、オレはサッサと話を切り上げてホップ調整に入った。
横では、千鶴さんと梓さんが漫才をやっている。
「だぁ〜〜〜〜っ!ホップ効かせ過ぎだって!弾がカンペキ上に向かってるだろ」
「だ、だけど、梓。さっきは下がってるって・・・・」
「ったくもう!千鶴姉は極端なんだよ!」
「う・・・・あ、そうだ。ちょっと梓の銃を貸して。弾道を見てみるから。その間、私の銃を撃ってていいから、ね」
とか言いつつ、千鶴さんは強引に梓さんと銃を交換する。
「はあ・・・・結局、また千鶴姉のホップ調整もあたしがやることになんのね。調整してやるから、ゲームまでにはかえせよ!固定ストックのG3A3は、あたしじゃムネにつっかえて使いづらいんだから。千鶴姉にはお似合いだけどさぁ」
「・・・・梓ちゃん、それって、どういう意味なのかなぁ」
にっこり笑う千鶴さん。
寒ぅっ!
なんか、急に冷え込んできたぞ。
「あ、なななな、なんでもないですぅ」
「どう言う意味なのかなぁ」
「い、いや、耕一とおそろいだし、いいなぁ、って」
「え?そ、そんな、おそろいだなんて、別に狙ってるわけじゃ・・・・」
柳川さんともおそろいだけどな。
そうツッコミを入れたかったが、オレも命が惜しいのでとりあえず控えておいた。
そうこうするうちに、ウチの連中もぞろぞろやってきてホップ調整に励む。
と言っても、ToHeart旅団の連中はいいかげんなヤツが多い。<自分のことは棚に上げている。
熱心に調整してるのは三人だけだ。
こういうコトには手を抜けない性分の葵ちゃんと、並のオトコ以上にアツい女が二人。
じっくりと吟味するようにAK−47アサルトライフルと睨めっこしているのは、鋼鉄の女戦士坂下好恵。
空手で鍛えた運動能力もさることながら、勝負に賭ける情熱にはすさまじいものがある。
そして、勝負に対するこだわりと言う点で一歩もヒケを取らないのが、炎のアタッカー委員長こと保科智子。
オレの知る限り「一番ええ銃よこしっ!」とミリタリーショップの店頭で啖呵きった女は、委員長一人だ。
愛銃は最強の誉れも高いMC−51。
強烈な突撃能力を誇る坂下と、ややクレバーな側面展開からの制圧を得意とする委員長。
この二人が、我が部隊の攻めの要と言っても過言ではない。
「浩之様、相手チームの準備が概ね整ったようですが」
そう声をかけてきたのは、バランスの取れたパワーと集弾率、そして3点バースト機能が魅力的なSIG551を抱えたセリオだ。
綾香と並び、攻めに守りに活躍する遊撃をメインにこなす、貴重な戦力だ。
ルール上サテライト・サービスの使用が禁じられていなければ、オレなんかじゃ歯が立たない強敵となるだろう。
「うっし。じゃあ、軽く一戦といきますかね」
気合を入れるようにステアーのマガジンを脱着して、オレは坂下と委員長を促した。

 

 

さて、ミッション開始となるわけだが。
とりあえず一戦目は、2チームに分かれてのフラッグ戦だ。
ルールは簡単。
先に相手側の旗にタッチした方が勝ちだ。
もちろん、敵攻撃隊や守備部隊の攻撃・防御をかいくぐって、だが。
BB弾が身体あるいは銃に当ったヤツは戦死。
ナイフアタックは禁止となっている。
それから、オレたちならではの特殊ルールになるが、電波、鬼の力、サテライト・サービスは使用禁止だ。
っていうか、そんな特殊能力使われたら、サバゲーになんねー。
「さて、どう攻める?」
AK片手にやる気満々の坂下が訊いてくる。
「そうねぇ。それに関しては、隊長さんの意見を聞きましょ」
そう答えておいて、綾香は気楽そうな笑顔をオレに向ける。
隊長ってのは、オレのことだ。
経験は似たり寄ったり、実力的には綾香なんかの方がよっぽどオレより上なんだが、レミィがノリノリで「イェッサー!上官ドノ」とか言ってたおかげで、名目上オレが隊長ってコトになってる。
「そうだな・・・・」
とりあえず、オレは彼我の戦力を勘定してみた。
オレたちの布陣は、だいたい以下の通り。
最終ディフェンダーは、センパイとセバスチャンの2人。
前進防御と援護を担当するのが、このオレ藤田浩之を筆頭にあかり、マルチ、葵ちゃんの4人。
正面から攻勢をかけるのは、坂下、委員長のツートップにトリガーハッピー気味のレミィ、それからポイントマン(いわゆるオトリ役だ)の志保を加えた4人。
綾香、セリオの2人は遊撃隊として状況に合わせて行動する。
雅史が来てりゃあ、回り込み部隊まで揃ったカンペキな布陣になるんだが、まあ、そこまで贅沢は言うまい。
それから、予測される敵さんの布陣。
まず雫小隊だが、そもそも小人数の部隊であるからして、そう奇をてらった布陣にはならないはずだ。
祐介の64式小銃は、はっきり言って重い。まあ、常日頃愛用しているステアーAUGも相当重い銃だが。
性格から言っても銃から言っても、祐介はディフェンダーに回る可能性が高い。
月島兄のAPS−2はエアコッキングのスナイパーライフル。とんでもない飛距離と命中精度を誇るものの、連射は出来ない。
ロングレンジスナイパー以外の選択はないだろう。
攻め手に回りそうなのは、FA−MASの沙織ちゃんだ。
性格的にも銃を見ても、攻めに向いている。
こうなると、後の二人は遊撃に回らざるを得ないんだろうが。
瑞穂ちゃんは、言っちゃあなんだが、ウチのマルチと一緒であんまり役に立たない。
とりあえず、アンブッシュからのショートレンジ狙撃にだけ注意しておけば問題ないはずだ。
読めないのが月島妹。
「いけない、いけない。当っちゃったよ」とか言いつつ速攻で戦場から姿を消すことがあるかと思えば、時々予想外の回り込みをかけて「くすくす・・・・BB弾、届いた?」とか言いつつこちらの防衛網を突き崩すこともある。
とにかく行動が読めない、要注意人物の一人だ。
これに関しては、コレという有効な対策が浮かばないんで、気をつけろ、としか言いようがない。
次に、痕私兵団の面々。
柳川さんと梓さんは、まず間違いなく攻めだ。
これは、性格的なものが大きい。
守りは耕一さんと千鶴さんだろうが、経験上、この人たちの場合フラッグ近辺にアンブッシュ、なんていう消極的なディフェンスはあまり考えられない。
前進しての積極防衛に出てくると見た方が良い。
遊撃に回るのが楓ちゃん、初音ちゃんの2人。
月島妹ほどの怖さはないが、この二人小さな体を活かした隠密行動が得意だったりするから厄介だ。
予想外の方向から飛んでくる弾ほど怖いモンはないからな。
更に、今回は柳川の上司とかいう長瀬ってオッサンもいる。
実力のほどは不明だが、警察関係者ならそこそこ銃の訓練も受けているだろうし、何より銃がセミオートのみの電動スナイパーライフルPSG−1だ。
ここは完全にスナイパーとして数えておいていいだろう。
合計で考えてみると。
消極的ディフェンダーが祐介1人。
積極的ディフェンダーが耕一さん、千鶴さんの2人。
正面アタッカーが沙織ちゃん、柳川さん、梓さんの3人
遊撃隊1が月島妹1人。
遊撃隊2が瑞穂ちゃん1人。
遊撃隊3が楓ちゃん、初音ちゃんの2人。
スナイパーが月島兄、長瀬のオッサンの2人。
やけに遊撃隊の数が多いが、こんなもんだろう。
さて。
厄介なのは、敵にあってこちらにはない兵科、スナイパー部隊だ。
前線で撃ち合ってるところを狙撃されたんではたまったもんではない。
早急に潰してしまいたいところだが、そうなるとやたら数の多い遊撃部隊がジャマになる。
その分ディフェンスは脆いと見てよいだろう。
以上を考慮した結果。
「作戦その1。攻撃隊は敵遊撃部隊を駆逐、次いで狙撃部隊を殲滅し、その後一斉攻勢をかける。敵主力部隊との戦闘は漸次後退しつつ前進防衛隊が担当し、可能な限りの時間を稼ぐ。前進防衛隊が粘り強く防衛しつつ敵攻撃隊を釘付けに出きるか否かが勝利の鍵だ」
「ふむふむ」
「作戦その2。この際防御をかなぐり捨てて攻撃隊、前進防衛隊総出で電撃的攻勢をかける。敵に遊撃隊、狙撃隊を活用するヒマを与えず、一気に叩くのがポイントだ。この場合、恐らく正面から激突することになる敵攻撃隊を速やかに排除できるか否かが勝敗を分けることになるだろう」
「それも悪くないわねぇ」
「作戦その3。みんなでバンザイ突撃を敢行する」
「却下。言うと思ったけど」
「作戦案1でいきましょ。電撃作戦も悪くないけど、緒戦だからねぇ。慣らしの意味も含めて、じっくり攻めましょうよ」
「せやな。ただ、そうなると宮内さんはディフェンスの方がええなぁ」
「うむ。レミィ軍曹!」
「イェッサー!」
「本作戦においては防衛任務を命ずる。頑張ってくれよ」
「イェッサー!バリバリ撃ちまくってやりマス!」
だから、出来るだけ気取られないように敵遊撃隊を狩りださにゃならん攻撃隊から外されたんだが。
「その分、葵ちゃんを攻めに回そうか?」
「いや、いいわ。防衛隊の方が大変そうだからね。サポートは綾香に期待させてもらうわよ?」
「オッケー、オッケー。好恵の期待に添えるように頑張るわよ」
そこで、ピーッと甲高いホイッスルの音が聞こえた。
相手チームの、準備OKを告げる合図だ。
これに応じて、こちらがホイッスルを鳴らした時点で、ゲーム開始となる。
「よっしゃ、行くか。全員ゴーグル着用!」
全員が保護ゴーグルをはめたのを確認して、俺は景気よくホイッスルを吹いた。


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