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サイバースペース

ブロッサム・シティには、(他の有力シティ同様に)高度なコンピュータネットワークが存在する。
これはサイバースペースと呼ばれ、シティにおける大半の商取引と情報の交換・管理に利用されている。
サイバースペースにおいては、現実世界とは異なる独特の法則や概念が存在するので、ここに説明しておこう。

サイバースペースの構造

ブロッサム・シティのサイバースペースは、以下のような構造になっている。

  略称 主なクラスタ空間 セキュリティ・ランク
最上位ホスト GOD シティブレイン、MAホスト、UBサーバー、KS.Co SSS
基幹クラスタ ARK シビリアンサービス、TECサーバー SS
上位コミュニティ HIC 高度な企業ホスト、最上位のハッカーネットワーク
中位コミュニティ MIC 企業ホスト、普通のハッカーネットワーク
下位コミュニティ LIC 一般のサイバーサービス
各クライアント CSO パーソナル・スペース、各個人の端末

最上位ホスト(GOD:グローバル・オブジェクト・ディメンジョン)

議会所有の管理ホストや軍の機密情報サーバー、シティ大学の高度学術サーバー、クナップシュタイン財団の財団サーバーなどがこれに相当する。
セキュリティは物理的なレベルから厳密に管理され、ハッキング行為はほぼ不可能。サイバースペースからどうにかする努力をするよりは、当該機関のコンピュータ・ルームに不法侵入する方がまだしも現実的である。

基幹クラスタ(ARK:アーククラスタ)

市民情報サービスや専門家向けの「閉じられた」高度情報ネットワークなど。技術者ネットワークなども、大半がこのランクに属する。
ものによってはGODへの接続権を持つ場合もあり、セキュリティはやはり厳重に管理されている。二重三重どころか、「ここまでやるか?」的な重層的電脳トラップが仕掛けられている事も多く、ハッキングは自殺行為と言っても過言ではない。

上位コミュニティ(HIC:ハイ・インテリジェント・コミュニティ)

大企業や有名どころのサイバー・コミュニティなど。極めて程度の高いハッカー・グループも、このレベルのサイバースペースを構築していることがある。
機関クラスタへの接続権を持つ場合もあるが、大半は独立サーバーである。
高いレベルのセキュリティ管理が成されており、ハッキングは大変な危険を伴う。HICを攻略できるだけの腕があれば、ハッキングの「プロ」として名声を得ることが出来るだろう。
ネットダイバーは、通常このレベルの情報を引き出すには判定が必要になるが、他のMICに移るため通過するだけなら自由に行き来できる。

中位コミュニティ(MIC:ミッド・インテリジェント・コミュニティ)

きちんと管理された企業のホストサービスや、多くの「高度な」コミュニティが属するランク。大抵のハッカー・グループは、このレベルのサイバースペースを構築している。
合法か非合法かを問わず一定のHICに対する接続権を持つことが普通で、セキュリティは充分に管理されている。ハッキングは困難であるが、逆にこのランクのコミュニティを攻略できればハッカーとして認められると言えよう。
ネットダイバーは、通常このレベル以下のサイバースペース情報は自由に入手できる。

下位コミュニティ(LIC:ロウ・インテリジェント・コミュニティ)

ごく普通のサイバーコミュニティ。趣味で運営されているようなホームページの類は、ほとんどこのレベルのものである。とはいえ、意外に価値ある情報が眠っている場合も多く、決して無視できるサイバースペースではない。
セキュリティ管理は行き届いているようでいて往々にして穴が多く、ネットダイバーならば呼吸をするように平然と突破できるものであることが大半。
一般の利用者は、このランクのコミュニティを通して各種サービスを利用する。

各クライアント(CSO:サイバー・サービス・オブジェクト)

ホームサーバーや個人端末の類。ダイブコアも、このランクに属するCSO機器のひとつである。
セキュリティ状況はまちまちで、ネットダイバーなどは充分な注意と対価を払って高度なセキュリティを構築しているだろうし、一般の利用者がまともなセキュリティ対策を施している可能性は低い。もっとも、CSOは他のサイバースペースとは違い常設空間ではない場合が多いので、ハッキング自体は困難であろう。スペース自体が存在しない状態では、いかなハッカーとてハッキングのしようがない。

代表的サイバースペース

名称 略称 ランク 主な機能など
シティブレイン SBH GOD シティ機密情報の管理ホスト。
MAホスト MAH GOD 防衛機動軍の機密情報管理ホスト。
UBサーバー UBS GOD シティ大学の極秘学術情報管理ホスト。
KS.Co KCC GOD クナップシュタイン財団の各種機密情報管理ホスト。
市民サービス CSnet ARK 市民の個人情報全般を管理するサーバー。
TECサーバー TECnet ARK 技術者ネットワークの機密情報サーバー。
エージェントサーバー --- ARK エージェント向けの極秘サーバー。玉石混交ながら無茶な量の情報が掻き集められている。
クナップシュタイン財団ネット KSN HIC 表に向けて公開されているクナップシュタイン財団のネットワーク。KS.Coとは繋がっていない。
レジスタンスネットワーク --- HIC レジスタンスの各種機密情報など。ランクはHICだが、セキュリティレベルはGODに準ずる。
オーバーライトラバーズ OWL HIC ネットダイバー「フクロウ」のデータサーバー。普通、発見自体不可能。
ギャングホスト --- HIC 各種ギャングのデータサーバー。もちろん組織毎に別物。
トラブルシューターコミュニティ TSC MIC トラブルシューターのコミュニティ。各種仕事情報などあり。一般には非公開。
サイバー・セキュリティ・サービス SSS MIC サイバースペース警備会社。規模的にはMICだがセキュリティはHICレベル。お手頃価格であなたの秘密を守ります。
ドクターネット DRnet MIC 医療関係者のネットワーク。意外にセキュリティは甘い。
バットマン BAT MIC ネットダイバー「コウモリ」が主催するハッカーコミュニティ。当然、一般には知られていない。
シティコミュニティサービス CCS LIC シティのホームページ。一般的な情報やサービスの提供。
インフォサーチャー IfS LIC 所謂検索エンジン。ごく一般的な情報しか拾ってこないので実用性は今ひとつ。
ブロッサムシティを良くするページ BCIC LIC ブロッサムシティを良くしよう青年の会主催による政治運動ページ。有益な情報は少ない。が、実はレジスタンスネットへの入り口だったりする(当然メンバーしか知らないが)。
ブロッサムシティ・ミュージック・ネットワーク BCMnet LIC 音楽配信コミュニティ。最新ヒット曲から懐かしのあの曲まで。

アヴァタール

ダイブコアやダイブユニットは、サイバースペース内に精神投射を行うヒューマンインターフェースである。キーボードなどの「操作する」機器ではなく、サイバースペース内に一個の「人」として存在し、直感的に情報を取り扱う究極のシームレス入出力デバイスだ。各種コードは自動的に変換され、言語やシステムの差異に悩まされる事はない(但し、暗号情報など敢えてサイバースペース規格に沿っていないデータを解析できるか否かは使用者の腕によるが)。これらのデバイスによりサイバースペースに投射された精神情報を、一般にアヴァタール(化身)と呼ぶ。
アヴァタールは、サイバースペース内で「人」などの形を伴い認識される。現実世界の使用者の姿がそのまま投射されるとは限らず、スキンを被せて全くの別人(あるいは人以外のもの)になり澄ましている場合も多い。但し、アヴァタールであることを隠す事は出来ないし、ある程度の腕があれば「作り物の」アヴァタールであることは見抜き、あるいは見抜かれるだろう。従って、信用が重要となるビジネスなどにおいては、アヴァタール・スキンが使用される事は稀である。アヴァタール・スキンの使用は、要するに相手を信用していないということを宣言するようなものだからだ。
ともあれ、精神投射オブジェクトであるアヴァタールを使用することにより、サイバースペース内での行動は極めて効率的に行うことが出来るようになる。各種変換のタイムラグがあるため電気信号と同等のスピードを出す事は出来ないが、それでも現実世界の1000分の1程度(状況によって多少前後する)で行動を行うことが出来る。使用者にとって、サイバースペース内での1秒は現実世界の1ミリ秒に相当すると思うと分かり易いだろう。
一方で、アヴァタールは精神投射オブジェクトであるが故に致命的な弱点を持つ。アヴァタールの破壊は、現実世界にある個人の精神の破壊を意味するのだ。この現象による精神破壊をホワイトアウトと呼び、ネットダイバーには特に恐れられている事態である。アヴァタールはユニークオブジェクトであるため一度に一つしか存在することが出来ないので、ホワイトアウトを完全に防ぐ手段は今のところ確立されていない。例外として、一定時間経過後にアヴァタールの存在が確認できなかった場合にコピーした精神投射データを元に精神を復元するコフィン(コピー装置)とリインカネイション(復元装置)という機器が存在するが、大変なディスク容量を消費する(個人の全てを記録するわけだから当たり前だ)上に、アヴァタールが行動しているあいだのセキュリティが確保できない(コピーに対する改竄や破壊を防ぐ手立てがこれといって無い)ため、大規模な設備を持つ専門家が厳重な警備の下で稀に使用する程度である。しかも、復元が上手くいくとは限らず、サイバースペース内に同時多発精神投射オブジェクト(ドッペルゲンガー)を生み出してしまう可能性も否定できないため、一般には役立たずの金食い虫であると認識されている。

ソフトウェア

サイバースペース内では、当然各種のソフトウェアツールが使用される。これらは、ゲーム的には当然適切なものが使用されている(一般的に、ツールはサイバースペースから無料で入手が可能である)という前提で処理される。
その上で、サイバースペース上での行動やその成否に差が出るのは、使用者によってソフトウェア自体を改変し、より高度なものにしている可能性があるためである。攻撃ツールや防衛ツールは普通の者には大変危険で役に立つもののように見えるが、その基礎情報はネットダイバーなどにとっては周知の事項だ。ネットダイバーなどのサイバースペースの「プロ」は、当然それに応じて自身が使用するソフトウェアに対する改変と、恐らく他の者が用意してくるであろうソフト的な改良に対抗するためのロジックを組み込んでいるわけである。従って、普通の人間がネットダイバーの「高度な」攻撃や防御に対抗する事は不可能に近い状況が発生するのだ。
無論、ソフトウェア企業は次々と新たな攻撃的、あるいは防御用のソフトウェアを開発し、リリースしているが、リリース後3日もすればそのソフトウェアの構造はネットダイバーのコミュニティに流布され、対応ツールが出回るのが現状である。このイタチゴッコの状態を解消する手段は、今もって確立されていない。
高度なサイバースペース行動――例えば電脳戦闘など――では、結局今もプロの「腕」と「読み」が重要な位置を占めるのだ。
一応、代表的なソフトウェアの一部を列記しておく。製品については本来価格がある(オープン価格のものも多いが)のだが、サイバースペース上で勝手にコピー、配布が行われている現状ではあまり意味が無いので省いている。

名称 概要
シェルウォール アヴァタール用の防御プログラムの総称。通常固定的なサーバーなどを保護するファイアウォールに対して、常に移動するアヴァタールに追従して保護するため「貝(シェル)の壁」と呼ばれる。カーネルに対するシェルとは違うので注意。元となったプログラムはアシステック・ソフトの製品だが、実用的なものはほとんど原型を留めていないものが多い。
ニードルスピア 対シェルウォール突破用攻撃プログラムの総称。相手のセキュリティホールを突く形で動作するものがほとんどであるため、このように呼ばれるようになったものと思われる。原作者不明だが、サイバースペースのあちこちに転がっている。
スケープドール アヴァタールが攻撃を受けた場合にダメージを肩代わりするダミーデータ構造体。スケープドールが破壊され尽くされてしまうと、非常にデリケートなアヴァタールを守るものは何もなくなる。とはいえ、あまりに巨大なスケープドール構造体はアヴァタール自体の性能を極端に悪化させるため、実用サイズには限界がある。元はユヅキ・コーポレーション(ネオフリスコ)のファイアウォール製品に付属していたものであるが、どこの誰とも知れない者が独立動作ライブラリを作成し、現在では当たり前のようにサイバースペース各所に転がっている。
パワーマッチ データ変換ソフト。言語、データ形式はもとより異なるインターフェース間の変換までこれ一つで出来る優れもの。元の作成はネオフリスコ大学情報技術学部。カスタムチューニングバージョンや新しい形式のデータに対応するプラグインは幾つも作成されているが、構造自体はほぼ原型のまま広範に使用されている。アヴァタールには無くてはならないソフト。
パワーRW パワーマッチのソースプログラムを悪用したソフトウェアの一例。指定データの一括検索を行い、任意のデータに書き換える。例えばリンク用の文字列をシステムデータ領域に書いてしまえば、通常のパワーマッチと思ってうっかり拾ってしまったユーザーの情報が丸見えの状態になってしまうわけである。サイバースペースには、このような悪意に満ちたプログラムも多数転がっている。
ヴァーチャルコア ダイブコアを介して、幾つもの仮想コアを使用するというサイバー機器補助プログラム。もっとも、ドラッグコアやヘルプコアの物理的な動作をエミュレートすることは出来ないし、使用するためにダイブしなければならない関係上インフォコア専用のソフトウェアだと思って差し支えない。但し、分裂の特技を持つ者にとっては大きな武器になる。通常二つしか使用できないコアを、幾つでも使用できるためである。有名なところでは、複数のスナイパーコアと関連インフォコアを並列同期動作させるよう改変し脅威的な命中精度を誇るスナイパーコアMAXIなどの作成が確認されている。

ハードウェア

サイバースペースを利用するためには、当然その規格に沿ったハードウェアが必要となる。
一般的な情報端末の場合、入出力はキーボードとモニターがメインになる(そして、大抵の場合はそれで事足りる)。ほとんどの設置型端末及び大型携帯端末はこの設備しか持たない。
アヴァタールを使用するためには、サイバー手術によりダイブコア(コアポート)を埋め込むか、もしくはダイブユニットと呼ばれる特殊な接続設備が必要になる。
ダイブユニットは巨大なヘルメットのような形状をしており、実際頭部に装着して使用する。入力は脳波計測、出力は脳波信号なのでモニターは存在しない。信号変換に多少の時間が掛かるため、ダイブコアに比べると効率が悪い。
ダイブコアは、最も洗練されたハードウェアである。ダイブユニット同様脳波変換を行っているが、神経に直結しているため若干動作が速い。そして、現実世界での若干の差は、サイバースペースでは致命的な差となって現れることもしばしばである。このため、大抵のネットダイバーはダイブコアを使用する。