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防衛機動軍

防衛機動軍は、シティを守護する武装組織である。
外敵(主にアウターサヴェッジ)からシティを守る防衛軍であり、同時にシティの警察機構としての役割も担っている。
一般に暮し向きの良い市民からは相応に受けが良いが、そうでない者からは煙たがられていたり、あるいはあからさまに敵視されていたりする。

沿革

防衛機動軍は、アメリカ合衆国西海岸、サン・フランシスコに展開していた機械化歩兵軍集団を祖とする。元々はネオフリスコ・シティのシティ防衛軍と同じ軍集団であった(そのためか、今でもネオフリスコ・シティ防衛軍とは比較的良好な関係にある)。つまり、合衆国の西海岸放棄の際、独自行動に移った軍人たちの末裔なのだ。
彼らは、はじめシティにそぐわない集団として冷遇された。しかし、同じく機械化歩兵軍集団を祖とするアウターサヴェッジの一派を退けシティ防衛に成功して、市民の尊敬と信頼を勝ち得ることに成功した。ブロッサム・シティ設立初期にあった自警団がほどなくして解散し、シティの保安全てが防衛機動軍に委ねられるようになった事からも、市民の防衛機動軍に対する信頼のほどが理解できるだろう。
以後、防衛機動軍はシティの守り神として幾人かの傑物を輩出しつつ、アウターサヴェッジと犯罪者たちに恐れられてきた。
しかし、北方のオリンピア・シティとの対立傾向を顕にするに従い、防衛機動軍は次第に嫌われ、疎んじられるようになった。厭戦風潮が高まってきたこともあっただろうし、また、武力衝突が現実味を帯びるに従って強行に、そして横柄になる軍への批判もあったのだろう。
ともかくも、現段階で防衛機動軍は上層階級の市民に頼られる一方で下層階級の市民に嫌われているという、微妙な立場に立たされている。

組織

防衛機動軍は、シティ議会の常設委員会である都市防衛委員会の下部組織である。これは行政関連委員会の一つであり、厳密に言えば防衛機動軍に司法権は無い。防衛機動軍が警察的な行動をとる場合、司法委員会からの司法権代行という形式がとられる。
但し、現実には防衛機動軍長官を筆頭とし、シティ議会からは独立した組織であると考えた方が良い。
配下の部隊は、3師団2連隊にまとめられている。
師団は2個大隊と8輌の戦闘装甲車、12門の砲、随伴輜重隊から成り、連隊は2個大隊及び4輌の戦闘装甲車、随伴輜重隊から成る。
大隊は2中隊と随伴輜重隊、中隊は2小隊と随伴補給隊、小隊は4分隊から成る。
隊としての最小単位である分隊は8名で構成され、通常これ以下の単位で作戦行動をとる事は無い。
これら正規部隊の他に、要人警護やカウンターテロ、あるいは救出作戦などに従事する特殊部隊も存在するが、その数は内部事情などによって変化し一定しない。更に参謀部、補給部、開発部、教導部、衛生部、人事部、生活部など周辺の人員まで含めて1万人程度の人員が、直接的な軍関係者として働いている。
各隊の指揮官には、分隊には曹長もしくは軍曹、小隊には少尉、中隊には中尉、大隊には大尉が充てられる。師団、連隊の指揮官はそれぞれ中佐、少佐が充てられるが、実際にはこの単位で作戦行動がとられる事は無く、佐官は多分に儀礼的、政治的な存在である。万一、師団、連隊レベルでの作戦行動が必要になった場合、軍務規定に照らし的確な大尉に指揮代行が命じられると思われる。
階級は、下から順に陸兵、上級陸兵、伍長、軍曹、曹長、少尉、中尉、大尉、少佐、中佐、大佐がある。上級陸兵以下が兵卒、曹長までが下士官、その上が尉官、佐官である。
下士官には、通常配備訓練を終えた兵士が下士官試験に合格することにより任命される。
下士官として功績を上げれば、上官推薦を得て士官試験に臨む事が出来、これに合格すれば晴れて幹部階級である尉官となる。功績著しい者が4名以上の推薦を受けた場合、士官試験は免除される場合もある。
佐官になることは、通常の手段では不可能に近い。担当少佐の推薦を受け、他の全佐官による諮問をパスせねばならないからである。事実上、コネが無ければ佐官にはなれないと思ってよい。
最高階級は、大佐である。防衛機動軍長官、参謀総長の2名のみが、この官位を得ることが出来る。

装備

防衛機動軍の装備は、CAMを別にすれば意外に貧弱である。
戦闘車輌は、予備も含め40輌の戦闘装甲車(ガトリング砲もしくは36mm砲装備)及び虎の子の多目的ミサイル車が4輌あるだけで、戦車クラスの車輛は存在しない。設立当初には戦闘ヘリや輸送連絡機も存在したようであるが、燃料及び部品の確保が困難であるため現在は稼動していない(緊急時には、一応動くらしいが……)。バギーや大型トラックなどの車輛も燃料問題から極力使用が控えられており、戦闘行動の基本はあくまで歩兵のみ、極端なことを言えば車輛には歩兵が携行不可能な装備物資のみが乗る事を許され、歩兵隊は徒歩行軍せねばならないほどだ(さすがに、時間が無い場合にはそんな悠長な事はしないが)。水素蓄電池により動作する低速の通常車輛であれば、割と自由に使用させてもらえる。こういった状態でこれという問題が起きていないのは、ひとえに相手取るアウターサヴェッジやレジスタンスも装備が貧弱であることによる。
歩兵装備は、CAMをはじめとしてそれなりに充実している。太陽光分解水素発電システムなどの代替発電設備により電力だけはそれなりに確保できているため、とりあえず化石燃料を必要としない物品に関しては充分とは言えぬまでも必要量確保できているのだ。
Aレベル装備と呼ばれる標準兵装は、CAM、アサルトライフルもしくはライトマシンガン(人によってはヘビーマシンガンを持つ強者もいる)とグレネードランチャーもしくは手榴弾などを装備する。主にアウターサヴェッジなどと渡り合う場合に使用される本格的な戦闘装備だ。小型の設置型榴弾砲が付属する場合もある。
Bレベル装備は、主にシティ内部でのパトロールなどに使用される。前時代的なBDUにヘルメット、ボディアーマーと場合によってはシールドを防具として着用し、メインウェポンにはアサルトライフルかサブマシンガンが用いられる。これでも一般の民衆に対しては充分威圧感を与える装備だが、CAMを街中で着込むよりはマシ、という理由で採用されている。
Cレベル装備は、別名コンシール装備と呼ばれる。通常の服の下に着込むことが出来るSCAMを着用し、小型のサブマシンガンか拳銃を持つ、調査用の装備だ。同様な任務に就く事の多いエージェントの装備と比べると、それなりによいものではある。
Dレベルと指定された場合は典礼装備。軍礼服に兵科に応じた空砲銃やサーベルを持つことになる。

サイバー化

防衛機動軍においては、原則としてサイバー化手術は認められていない。例外は、戦闘などによる負傷や病気の治療に伴う場合のみで、それも戦闘向けのパーツ装備は禁止だ。理由は幾つかある。
まず、サイバー化は人の精神活動を著しく阻害する場合が多いこと。強力な力を手に入れても、すぐに暴走してしまう兵士では組織戦闘には向かない。軍が欲しているのは「強い個人」ではなく、とりあえず割り当てられた役割を果たせる程度の「平凡な部隊」なのだ。
次に、サイバー化及びサイボーグ兵の維持には相当の費用が掛かる上、その効果があくまでも個人に対するものであること。防衛機動軍は募兵制ではあるが、決して終身雇用というわけではない。むしろ、数年の訓練、勤務後に退役し、予備軍人となる者が多く、軍でも予備戦力確保のためそれを勧めている。このような状況であれば、サイバー化に費用を投じるよりもCAMなどの高度戦術モジュールの開発と改良、配備に金を掛けた方がよいという判断である。
他にも、市民感情、福利厚生など種々の問題から、軍においてサイバー化は禁忌とされていた。サイバー化が必要なほど傷付いた場合は、自ら軍を去るのが美徳とされているほどだ。
しかし、一方で強力な力を持つサイボーグ兵の導入を叫ぶ一派も根強く存在する。リヒシュタイン大尉などは、その急先鋒である。

対抗組織

防衛機動軍に対抗する組織の筆頭は、何と言ってもアウターサヴェッジである。彼らがシティに仇なす理由の大半は略奪であり、一般に装備も訓練も行き届いていないことがほとんどだが、稀に元合衆国軍部隊を祖に持つ強力な集団と対峙する場合もある。防衛作戦は概ねシティ間際で行われ(戦力的に余裕が無いためだ)、防衛機動軍の方からアウターサヴェッジの拠点を攻撃するような作戦が採られた事は無い。
次に挙げられるのは、防衛機動軍が最も頭を悩ませる反体制レジスタンスである。アウターサヴェッジに比べると武力衝突に到る機会はグッと減るが、下層市民の支持を得たレジスタンスの行動力は侮り難い。それどころか、多くの部隊が幾度となく煮え湯を飲まされている。特に、「見えざる刃」ジンが指導権を握ってからは、重大な局面で大恥をかかされるような自体が続出している。ジンが現状で市民生活に被害が及ぶことを極力避けているのもレジスタンスへの支持を高める要因となり、防衛機動軍の悩みを深刻なものにさせている。賛否両論あるものの、軍ではレジスタンス及びそのシンパに対して断固たる態度で制圧、捕縛にあたっている。
これらに比べると、ギャングなどの非合法組織やトラブルシューターのようなならず者の類は比較的対応が易しい。どちらも、干渉先の大半が下層市民か最上位の企業かに偏っているためである。企業であれば軍が出張るまでも無く優秀なセキュリティ・サービスによってガードされているし、下層市民に対してはぞんざいな扱いをしていても大して問題にはされない(それが問題だという声も一部にあるが)。それに、こういった手合いは少々重装備の兵を繰り出せば戦うまでも無く逃げ出すのが常であるからだ。

統制の獅子

リヒシュタイン・ネルベルク大尉は、元々対アウターサヴェッジ防衛戦に従事し功績を上げてはいたが、少尉任官当初は有能ではあるがそれほどの傑物だとは評価されていなかった。
しかし、中尉昇進と同時にシティ警備任務に従事するようになるや、対レジスタンスという旗印を掲げ嚇々たる業績をあげるようになる。その手法はともすれば手荒で、囮捜査や無警告制圧捜査、レジスタンス要員への拷問や銃殺など(さすがにこれらは一般には伏せられていたが)と苛烈を極めるものであった。真偽の程は定かではないが、警備担当中尉であった当時に上官から「貴様はゲシュタポを再現するつもりか」と言われたのに対し、リヒシュタインは「彼らのような失策は犯しませんよ」と答えたという逸話が流布されているほどだ。
手法はどうあれ、リヒシュタインの手腕により盛んであったレジスタンス活動は急速に沈静化し、彼は有力市民の賞賛を浴びることとなる。その功績により実戦部隊最上位階級にあたる大尉に就任した際、リヒシュタインは演説の中でこう言った。

兵士諸君!
私は、我々の行動がいささか目に余るとの批判を受けていることを知っている。
君たちが、無責任なマス・コミュニケーションの、あるいはその言葉すら信じてしまわずにはいられぬ善良なる市民の批判の目にさらされ、しばしば肩身の狭い思いを強いられていることを知っている。
私は、詫びねばならない。諸君に。
しかし!
同時に私は知っている。
人には統制が必要だ。かつては神の名による、そして王侯による、今では権力による。
さもなくば、我々は誇りあるシティが崩壊する様をこの目に映さねばならず、人の尊厳と尊き文化を失い、憎んでやまぬ蛮族どもと同じになってしまうだろう。
汚名が必要であれば、甘んじて受けよう!
統制のためには人の皮を被った獅子ともなろう!
兵士諸君!
心あらば、そして、誇りあらば、この薄汚い獅子に力を貸して欲しい。
私が諸君らに望む事は、ただそれだけである!


この演説以後、リヒシュタインは「統制の獅子」の異名を戴くこととなり、防衛機動軍タカ派の重鎮となった。
その後、レジスタンス半壊の混乱に乗じ実権を握った「見えざる刃」ジンと軍内部穏健派の反発により防衛機動軍各部隊が苦戦を強いられるのは皮肉な結果ではあったが。
そして、Dr.ヒルマン技術大尉の助力を得て、掟破りのサイボーグ兵「ガンドール」の試験導入へと踏み切るのである。

赤き盾

マジョリー・ミルフィード少尉は、元々軍とは縁もゆかりも無い中流階級市民の家に生まれた。
少女時代の彼女は、さほど成績優秀でもなければ特定の分野に優れた才能を発揮していたわけでもない。それどころか、15の夏に両親と針路の問題で対立、家を飛び出したなど典型的なアバズレの家出娘のパターンである。
彼女に特異な部分があったとすれば、それから先の人生だろう。家を飛び出したはいいが、結局夢(それが何かは知られていない)を叶える事は不可能と悟った瞬間、彼女はありきたりに家に戻るなり男の下へ転がり込むなりする代りに、防衛機動軍の門を叩いた。純粋に生活のためだった、とミルフィードは述懐する。少女期から、相当の意地っ張りであり、かつリアリストであったらしい。
ともあれ、防衛機動軍に入隊したミルフィードは、半年間の練成期間を経て実戦を経験する。以後、数度の戦闘を経験し、そのうちに当時の指揮官と自らの戦い方に疑問を持つに到ったらしい。ミルフィードは、思い付いたように戦術に関する勉強を始め、やがて上官の指示に意見するほどになる。もちろん、このような人物が嫌われる(その指摘が的を射ていれば尚更だ)のは組織の常であり、ミルフィードは一切の昇進も無いまま部隊をたらい回しにされた。
そうするうちに、小賢しい兵がいる、との噂を聞きつけた物好きの士官が、自分の隊にミルフィードを引き抜いた(誰しも喜んだのであるが)。そうして、話を聞いてみれば実に理に適った見解を示す。しかも、それがいちいち実戦的である。これは、と思った士官は、一度の戦闘を経ただけでミルフィードを陸兵より上級陸兵に昇進させ、息吐く暇も無く強引に下士官試験を受験させた。結果、ミルフィードは半月後に伍長の階級章を受け取ることになる。マジョリー・ミルフィード、22歳の春、家を飛び出してから7年が経過しようとしていた頃だ。
それから先は、順調過ぎるほど順調に昇進し、瞬く間に現在の地位にまで昇り詰めた。実に6人の尉官からの推薦を受け、また直前に有力なアウターサヴェッジ「トルネードライダー」を壊滅させていたという功績もあり、非常に珍しい士官試験を免除された女性士官の誕生となった。この少尉就任はニュースにもなり、マスコミによる様々なインタビューの中でミルフィードはこのような発言をしている。

お話の通り、防衛機動軍にも不正はあります。見付け次第、正すようにはしていますが。
また、仰る通り軍ではなくレジスタンスを支持する市民の声があることも知っています。
特定議員や財団との癒着の噂が報じられている、それも重々承知している。
不正と欺瞞。
馴れ合いと妥協。
その真実を知っていても、人々はシティに頼るしかない。
ならば、私はシティを守り、人を守る。
私の任務は、まさにそれであり、私にはそれだけです。
軍の標語ではありませんが、軍人は民衆の盾となりしもべとなればいい。
そして、民衆にはよき主人であって欲しい。
私はそう考え、戦っています。
なにしろ、それしか出来ませんから。


この頃から、ミルフィードは「赤き盾」と呼ばれ軍のアイドル視されるようになった。年々軍の市民に対する印象が悪くなっていることを憂えていた穏健派幹部がこれを見逃すはずもなく、ミルフィードは不平に顔を歪めつつも各種の典礼に引き出され、シティでも最も有名な軍人の一人となったのである。
なお、件のインタビューを見て一番仰天したのは、十年も音沙汰無かった娘の顔を久し振りに見ることになった両親だったとか。