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復旧作業と無駄話

翌日。
俺は復旧作業のため新聞部に向かっていた。
結局、俺が描いたプランは単純極まりないものである。
まず、新しいHDDを用意し、OS他をインストール。
で、古いHDDをスレーブ設定にして増設。
その後、必要データを旧から新へコピーする。
古いHDDが物理的にイッちまってなければフォーマットして再利用。
なお、新しいHDDは俺のお古である4.3GBをくれてやることにした。
これでも、買ったときは3万近くしたんだが・・・・BOOTに9GB1本、データ領域に13GB2本で26GBという構成である今の俺のマシンにとっては、あまり有り難味のない媒体であることは間違いない。
この際、別の機体で働いてもらった方が有意義だろう。
どうせ部屋に転がってるだけの余剰パーツだし。
無意味に遊ばせとくよりはいくらかマシだし、だいたい、新聞部の機体はBIOSが古くて4GB以上HDDを認識できないんだし、いまどき4GBのHDD探し出してくる方がよっぽどホネだってだしな。
って、俺は誰に言い訳してるんだろう?

ガラガラ。

「おっと、ノックを忘れた。失礼するよ」
「あ、どうぞ。お待ちしてました」
今日は天羽の方が早かったらしく、席を立って出迎えてくれた。
ちなみに、今日も俺をこの件に引き込んだ張本人であるところの川鍋の姿は見えなかったりする。
アイツとは、一度きっちり話をしておく必要があるかもな。
「昨日言われてたものは、一応揃えておきましたけど」
そう言って、天羽は長机の上に置かれた物品を指し示す。
そこには、購入時の添付品と思われるソフトやマニュアルが一式用意されていた。
「ああ、サンキュ」
俺は、とりあえずモノを確認することにした。
マニュアルの類はともかく、ソフトはきっちり揃ってないと困る。
OS、ワープロ&表計算、起動ディスクにドライバ類。
「うん、問題はなさそうだ。じゃ、さっそく始めますか」
「すみません。よろしくお願いします」
この程度の作業で、そう頭を下げられてもなぁ。
こっちの方が、逆に恐縮しちまう。
って、俺も意識し過ぎか?
いかんいかん、んなコト考えてる場合じゃなかった。
下校時間に間に合うように、サッサとやっちまわないとな。
俺は、工具と換装するHDD、念のため持ってきたIDEケーブルなんかの類を準備して作業に取り掛かった。
とりあえず、ケーブル類を抜いてパソコン本体を取り出す。
で、カバーを外して、っと。
「うわ、すっごいホコリ!」
結構至近の背後から、天羽が素っ頓狂な声を上げる。
って、覗き込んでいたのか?
う〜〜〜、作業が気になるのか手持ち無沙汰なのかはわからんが、気になるなぁ。
「部室はちゃんと掃除してるつもりなのに」
「いや、まあ、デスクトップパソコンは結構給排気が激しいからな。半年も使ってりゃ、こういう状態にもなるもんだが」
「ちょっと待ってください。布巾を用意しますから」
「少々掃除したって、3ヶ月もすりゃ元の木阿弥なんだが・・・・」
「それでも、気分的にイヤです!」
いや、そこで俺を睨まれても。
止める間も有らばこそ、天羽は雑巾を用意してカバーを拭き始めた。
是が非でも、PCをクリーニングしちまわないと気が済まないようだ。
はぁ・・・・しょうがない。
下手にパーツを拭かれたりしないうちに、俺も本体側をお掃除しますか。
どうせ取り外す予定のHDDを取っ払って、SOCET7タイプのCPUに乗っかっている可愛らしいCPUファンを取り外して、と。
そんなこんなで掃除に励むうちに、優に30分の時間が経過していった。

で、改めて作業を進める俺の手元を、天羽は飽きもせず覗き込んでいる。
「パソコンの中って、こういう風になっているんですか」
眺めるのみならず、時折こうやって声をかけてくる。
まあ、あんまし女のこと喋る機会も無い身としては悪くない状況のような気もするが、どうにも気になってしょうがない。
俺も、修行が足りん。
そもそも、修行なんぞした覚えはないが。
「それって、何のスイッチなんですか?」
「スイッチって言うか、ジャンパーピン。これで、ハードディスクのマスターとかスレーブとかいう設定を変えるんだよ」
質問にはきっちり答えてしまう自分が悲しい。
「へぇ・・・・マスターとか、スレーブとかって言うのは?」
「う〜〜IDEっていう規格でだな・・・・」
挙げ句に始まる趣味のパソコン講座。
んなコトいいから仕事しろよ、俺。

さて。
季節は初冬、日が暮れるのは早い。
どのくらい早いかというと、天羽とパソコン問答しながらのハードの増設が終わった頃にはとっぷりと日が暮れてしまうほどに早い。
「う〜〜、時間的にキビシイなぁ」
いらんことに話を弾ませてしまった自分が悪いんだが。
この分だと、今日はOSのインストールまでが関の山だなぁ、などと考えていると、扉が開き上岡と星原(というそうだ)が姿を現した。
その後ろに、更に一組の男女が控えている。
この寒いさなか、未だ半袖の制服を着ている男と女。
男の方は見るからにいい体格をしていたし、女の方もピンと張り詰めた感じのスポーティなスタイルをしている。
昨日上岡が言っていた、陸上部のエースたちだろう。
名前は、井之上に東由利だったか。