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重複する魂魄、収束する想念

私が何者であるか、私には説明する術がない。
二つの世界。
二つの名前。
そして二つの記憶。
混濁したままひとつになった私には、最早どちらが主でどちらが従という感覚すらもない。
私は、そもそも何者なのか。
これほど今の私を混乱させる問いかけは他にあるまい。
私にとって、今や意味を持つものは、たったひとつであるもの。

上岡進?

桐生真?

いや。
その名は、完全ではない。
トリスメギストス。
それだけが、ひとつであることを許された名である。
その名は、この世界にひとつであることを保証する。
この世界が、ひとつになることを志向する。
トリスメギストス――すべての混濁の果てにある、たったひとつの完全。
この世界を超え存在する、唯一。
私は、トリスメギストスを目指さねばならない。
私が、何ものであるか。
その答えを得ようとするのなら。

それに、何の意味がある?

それが、どうしたというのだろう?

重複した魂魄は、ふたつの知識と経験則を内包する。
いや、実のところそれはふたつどころではないのかもしれない。
異なるふたつが織り成す綾は、それぞれがバックボーンとして持つ世界の意識をも包含する。
互いにあり得ない真実が、縦横の糸となりタペストリーの地図を織り成す。
それは、絶対にあり得ず、そして絶対的である世界。

ひとつになる、か。

これが霊縁の果て、なのか。

新たな意識と知識、私の在り様が、新たな道を示す。
それは目の前に、全く唐突に、影となって現れた。
影は、少女から老人に、老人から若者に、信じがたい化け物に、神々しき権現に、刻々と変化を続ける。

それは、違う。

うわべの話だけれど。

影は、その全てであり、その全てでない。
それが、唯一。

トリス・メギストス、か。

トリスメギストス!

この場所に、何も無いなどと感じていたのはどれほど前か?
それは間違いだ。
ここには、何もかもがある。
何もかもすべてあるが故に、何一つ感じてはならぬ。
さもなくば、ひとつであることは叶うまい。
ほんの少しの前か遥かな過去か、未だ分かたれた私が感じていた虚無。
それは、私がひとつであるための殻のようなもの。
それを持たねば、すべてが混じり合い、私は消えてしまう。
何もかもあるところに、私は存在できない。
この場所に、私は私であり得ぬ。
何故ならば、唯一であるトリスメギストスは、つまり世界とすら分かち難い。
それを、何故私ごときが分かち得るというのか?
私もまた、トリスメギストスとしてしか存在できない。
迷宮の渦の中、私は、想念はたった一つに収束していく。

「先輩!」

「先輩!」