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  SPT流星記   その30 決戦通告〜仕組まれたファイナルシリーズ〜
 

SPTの躍進は、女子プロレス界を大いに盛り上げる出来事ではあった。
しかしながら、それがそのまま業界全体に歓迎されるかと言えば、そう単純ではない構図がある。
日本の女子プロレス界は、新日本女子プロレスというスタンダードかつ絶対的な強者があり、これを個性豊かな第二グループが取り巻いている、という構図が長く続いていた。
新女という絶対的な基準があり、他の団体はそこから見てどうこうという話に終始する。
それが、業界の地図であった。
経営的な意味でもそうであったし、選手の捉え方としても概ねイコールである。
だが、ここへ来てとんでもないダークホースが現れた。
それが、スターレイン・プロ・トーナメント――SPTだった。
SPTの、軽快でおバカ、それでいて世界のAACとタメを張る本格派、というスタイルは、新女とは異なる、しかし確かなメジャーの流れを作りつつあった。
不動のメインストリームが、不動ではなくなる。
既存団体が、そのことに危機意識を持たないはずがない。
それはそれで仕方のないことだし、SPTの活動が認められてきたということでもある。
しかし――
「まさか、こーなるとは、ねぇ?」
他人事のように呟く社長に、向き合っていた霧子は呆れ混じりの渋い顔で応じる。
「社長、現実を直視しましょうよ。どうするつもりですか、こんな――」
「あー、うん。選手には俺から説明するよ」
皆まで言わせず遮って、社長はデスクから立ち上がりつつ続けた。
「ま、なるようになるでしょ」
その言葉に、霧子の渋面は更に深みを増したのであったが。

翌日、選手一同が練習前のミーティングを行っているジムに、フラリと社長が現れた。
「む? 長よ、何事か緊急の通達でも?」
目聡く見つけた柳生が短く問う。
「うん? よくわかったな」
「この時間、事前の連絡も無しに長が現れるなど、他に考えようがあるまい」
呆れ混じりに嘆息し応じる柳生。
実は極端に朝に弱い社長、よっぽどのことが無ければ午前中にジムに顔を出すなんてコトはあり得ない。
下手をすると事務所にだっていない。
まあ、その分、夜は平気で日付が変わるまで事務所に詰めているんだが。
AACとの連絡とかあるしさ〜、とかいう本人の弁は、言い訳以上のものとは思われていない。
「なンか引っ掛かるけど、まあいいや。んじゃ、ちょっと時間もらえるかな」
「ふむ。手短に頼む」
相変わらずどっちが偉いんだかわからない柳生との遣り取りの後、社長は選手一同に向き直って告げた。
「あ〜、突然だが、本年度最終興行後にファイナルシリーズなるモノが開催される」
「あン? それ、ゲームじゃねぇっけ?」
「どの辺と勘違いしてるか判りにくいからツッコミ辛いんだけど」
首を捻るマッキーと微妙過ぎるツラでこめかみ押さえるラッキー。
「漫才は置くとして、何です? それ」
手馴れた様子で近藤が話を元に戻す。
ブーたれようとしたマッキーは、すかさずラッキーが押さえ込んだ。
「ん〜……平たく言えば、女子プロレスの祭典ってトコかな?」
「いえ、平た過ぎて理解し辛いのですが……もう少し、詳しく言って頂かないと」
呆れ混じりの仏頂面で、斉藤が詳報を求める。
「そだね。国内外の主要団体を軒並み掻き集めて団体対抗戦やろう、て趣旨」
最初からそう言え、と思う向きが無いでもなかったが、真田などは手を叩いて喜びを示す。
「おおっ! それは、燃えるッスね!」
「ふむ。当然、我らSPTもそこに参画する、と」
不敵に笑い、柳生が確認を取る。
が、いつもなら、にへら、と笑って頷きそうな社長は、幾らか苦い笑みを浮かべて言い淀んだ。
「ま、そーなるんだけどさ……」
「……ふむ? 何か……?」
言葉少な(と言いつつ、これでもいつもより多いが)に問うRIKKA。
「団体対抗戦、というくだりが気になりますね。主要団体すべて、と言っても、ただの団体対抗戦となれば、新女主催のEXタッグの拡大版とでも思えばいい。しかし、そこで勿体付けるということは、まだ何かあるのでは?」
「ベルトでも賭けるのでしょうか?」
それぞれに推理を進める葛城、草薙の2期生組。
「お祭り、オマツリ! ワクワクしますね!」
「そんな大舞台で、我々に出番があるとは……あ、永沢さんならあるかもしれませんが……」
既にお祭りモードの永沢に、自らの実力を計算しセルフで憮然とする杉浦。
これ以上放置すると収拾がつかなくなるな、と判断した社長は、已む無く頭の痛い事実を告げることにした。
「懸かってるんだよね、団体の存続が」
ボソリ、と呟くように発せられた言葉を真田が鸚鵡返しに――
「なるほど! 団体の存続を賭け…て……?」
きっかり5秒後。
「なんですとーーーーーっっっ!!!??」
指で栓した上からでも耳を劈く大音響に、社長は顔をしかめる。
いや、単に顔面めがけて盛大に飛んできた唾のせいかもしれないが。
「そんな……」
それまで静かに聞いていた伊達も、思わず絶句する。
「いや、チョット待てよ! なんだってまた、団体存続とか何とかってハナシになるんだ!?」
マッキーの理解力の低さ(というか誤解力の高さというか)は折り紙付きではあったが、今回ばかりは一同同意。
「長よ。説明を願いたい」
短く、しかし斬り込むような鋭さで、柳生が代表して再度の説明を促す。
「あー……どうもこうも無いんだが、新女からの挑戦状ってヤツかな? 他の団体には、葛城が言った通りEXリーグの拡大版ってカンジなんだけどさ」
元から隠す気も無かったとは言え、事ここに及びアレコレ言葉に配慮する努力も放棄して、社長はポリポリ頭を掻きながら説明を加えた。
「ヘビー級シングルリーグ、ヘビー級タッグリーグ、あとついでにジュニア級のシングルトーナメント。以上3つの試合結果と、更に専門誌やら経済誌やらの団体評価を加味して、負けた方は即解散、てヤツ」
「チッ! それなら、正面から殴り込んでくればいいものを!」
いつに無く、怒気も顕わに斉藤が吐き捨てる。
イベントにかこつけての謀略じみたやり口が気に入らないらしい。
「あちらにも、プライドがあると言うことでしょう。業界の盟主をもって任じる以上、軽はずみに格下相手に本気で潰しに掛かるのも無様。いや、あるいは……」
比較的冷静に分析する葛城の言葉を、ラッキーが引き継ぐ。
「他の団体には無関係、というのも気になりますね。ウチの足を引っ張る手合いには事欠かない、という可能性は?」
陰謀論めいた意見に、社長は肩をすくめた。
「それは、霧子ちゃんに指摘されたなぁ……国内はともかく、海外団体とのパイプではAACしかないウチとはレベルが違います、ってね」
「あの、そのような理不尽、受けて立つ必要は無いのでは……?」
おずおずと申し述べる草薙に、柳生は渋面でかぶりを振る。
「我らがプロレス団体で無ければな。が、プロレス団体である以上、逃げは許されん。士道不覚悟と取られれば、ファンの失望もいかばかりか」
「やるしかねぇってことか! お望み通り、やってやろうじゃねーの!」
今にも殴り掛からんばかりに吼えるマッキー。
それを取り押さえながら、ラッキーが溜息をつく。
「本当、なんだってこんなことに……」
「ま、目の上のコブなんだろうよ。ウチはな」
そう言って、漸く社長はいつも通りの気の抜けた笑みを取り戻す。
もっと色々あるかと思ってたケド、割とあっさり自分と同じ結論に到ってくれた選手たちに一安心。
「あんま気にするコトはないけどな。所詮、お祭りだ」
ま、この連中なら大丈夫でしょ。
なんてことを考えながら。