出会いは、ペットショップだった。 社長は、大の猫好きである。 動物全般好きだが、中でも猫がお気に入りである。 そして、似たよーな感性の持ち主が、あろうことか福岡の街にいたのである……! 「おお……ついにルシアちゃんが俺の指に頬擦りを……!」 仕事の合間、馴染みの(と言っても時々ネコ缶買ってくぐらいで、たいして上客でもないのだが)ペットショップに顔を出した社長、先日より恋焦がれていたルシアンブルー種の子猫が手に擦り寄ってきたことに感涙。 ちなみに、ルシアちゃん、というのは社長が勝手に付けている名前である。 と、社長の脇から、ヒョイ、と顔を出した少女がルシアに手を(実際には金網があるので指を)差出し、おいでおいでと誘う。 「あは。この子可愛い、カワイイ」 スリスリと擦り寄ってきたルシアの喉をカリカリと掻いてあげつつ、表情を緩ませる少女。 「な、何ぃッ!? シャイで人見知りの激しいルシアンブルーを、いともアッサリ手懐けるとは!?」 社長としては、結構ショックである。 猫とは概ね相思相愛の猫好き&猫好かれであるからして、自分以上の猫好かれの存在を簡単には認められない。 「え? 誰ですか?」 怪訝そうに訊く少女。 「私は女子プロレス会社の社長をしている者ですが」 条件反射で、つい答えてしまう社長。 「社長さん? そうは見えないけどな〜」 悪気ナッシンな笑顔で言う少女に、社長は、まあ、そうかもしれないなぁ、などと思いつつも言い返す。 「失礼な。SPTと言えば御当地団体としてソコソコ有名だぞ?」 少女は、そう言われて思い当たったのか、ニッコリ微笑んで頷いた。 「ああ、あのバカ社長さん! 納得、ナットク」 誰がバカ社長だ、コラ。 あと納得って、どういう意味だ、コラ。 「ふんぬっ!」 社長が思わず放ったチョップを。 「あは?」 ヒョイ、とかわす少女。 「ふんっ、ふぬっ!」 ビュン、ビュン。 「あは? あは?」 ヒョイ、ヒョイ。 「ふっ、ふぬっ、ふはっ、ふんっ!」 「あは? あは? あは? あは?」 「ふぬっ、ふぬっ、ふんっ、ふあっ、ふおっ、ふはっ、ふりゃっ!」 「あは? あは? あは? あは? あは? あは? あは? あは?」 「ふりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあーーーーーっ!!」 「あは? あは? あははははははーーーーー?」 全然、当たらない。 途中から、割と本気だったんだけど。 「そ、それで社長さんが、何の用ですか〜?」 さすがに息を切らしつつ、尋ねる少女。 ここに至り、同じく息を切らした社長はこう言った。 「ぜ、ぜひウチの団体に入っていただきたい! いや、マジで」 う〜〜〜ん、と悩むこと5秒。 「あは……条件次第で、わかりました!」 こうして、永沢舞(どーぶつLOVE)はSPTのレスラーになったのである!
「新人見つけて来たー。かなり有望」 遊びに行ったと思ったらホクホク顔で帰ってきた社長に、霧子は呆れた調子で応じる。 「はぁ……まさか、その腕に抱いた猫じゃないですよね?」 「んー? コレは永沢の入団条件のひとつであるルシアンブルーのルシアちゃん。団体のマスコットとして飼うから。カワイイでしょ?」 ホクホク顔の理由は、ソレかもしれないが。 「ルシアンブルーは、とってもシャイで人見知りが激しいケド忠誠心が強い猫なんだよ」 とても嬉しそうな社長の言葉。 なンか、どっかで聞いたことのあるような特徴が並べたてられているが…… 「……む……!」 たまたま所用で事務所を訪れていた伊達、社長が連れてきた新人よりも、社長の腕に抱かれた猫に視線釘付け。 「ん? 伊達も抱いてみる?」 浮かれ気分で空気を読めない社長、そんな提案をしてみるが。 「ニャ……!」 何故か伊達と睨み合うルシア。 「む…むむ……」 「ニャウゥ……」 ……猫をライバル認定すんな。 ルシアは、プイッと伊達から顔を背けると、スリスリと社長に頬擦り。 「あは。ニャンコちゃんの挨拶、アイサツ」 ニコニコしながら、永沢がそう解説する。 この行動、確かに"猫の挨拶"などとも言われるものであるが、実は対象に自分の匂いをつける所有権の主張である、とも言われている。 ――な……頬擦りまで! 愕然とする伊達。 「ふ…ふふ……猫、に…まさか……猫、なんか、に……!」 ブツブツ呟きつつ、フラフラとジムへ撤退。 余談になるが、その月のシリーズ、伊達のファイトは荒れた。 「……どしたんだろ、伊達? 俺がルシアちゃんを独り占めしてるからショック? 伊達も猫好きなのかな?」 空気も状況も依然読めずに、目をパチクリ瞬かせる社長。 霧子は、深いため息をついてから完全に呆れ返った声で応じた。 「嫌いだと思いますよ。嫌いになった、かもしれませんが」 そして、咳払いをひとつして付け加える。 「ところで、こちらでも新人テストを終了させています」 言われて初めて、霧子の隣に立つ見慣れない少女に気付く社長。 「杉浦です。よろしくお願いします」 小柄で、理知的な印象のする少女だ。 あと、メガネ。 「あれ?」 と気付いて、首をかしげる社長。 「確か一昨年はメガネはダメだって……あとクールビューティーは葛城で間に合ってるケド?」 何か言いたげな顔をしつつも、霧子は社長を隅の方に引っ張っていって密談モードでボソボソと説明する。 「……安かったんですよ。今回、テストには10万円しか使ってません」 「ヒドッ! 俺、永沢の契約金1500万出したよ!? 別途経費500万出したし!」 内容が内容だけに、霧子に合わせて小声ながらも驚愕する社長。 「その穴埋めと員数あわせのためにも、有益な行動だと自負しておりますが何か?」 言いたいことがあるんなら、まず御自身の無駄遣いをどうにかしてから言いましょうね? そんな意図を込めてニッコリ笑われると、社長としても降参するより他無い。 まあ、基本的に来るもの拒まずがモットーだし。 「……何か、不当に侮辱されているような気がするんですが……」 不満げに眦を上げつつ呟く杉浦。 「いやいや! 何でもないよ、チョット霧子ちゃんに怒られてただけ」 慌てて誤魔化す社長。 さすがに、ちょっと聞かせられる内容ではない……いずれバレるとしても。 「まあ、構いませんが……」 あまり社長の言葉を信じてはいない様子で、杉浦言葉とは裏腹に唇を尖らせる。 ――うぁ。さすがメガネっ娘。スルドイ。 妙な偏見に満ちた妙な感心の仕方で思いつつ、社長は苦笑し改めて新人二人を迎え入れた。 「ようこそ、SPTへ。ま、楽しくやりましょー」 程なくして真田、マッキーと並びSPT3バカトリオの一角に数えられることになる永沢舞。 そして"10万円の女"杉浦美月。 良くも悪くも個性的な新人二人、SPTに入団。
この"10万円の女"が、近い将来団体浮沈の鍵を握るハメになるのであるが……それは、少し先のお話。 |