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レッスルエンジェルスSURVIVORリプレイストーリー
  SPT流星記  その27
 第二次ファンクラブ大作戦〜嗚呼、キャンペーン〜

 

福岡市内。
SPT事務所。
もとよりここが定位置の社長、呼び出された真田、呼び出されてもいないのにやってきたマッキー、そして不穏なモノを感じて付き添ってきたラッキーが、一種独特の重苦しい空気の中で霧子の言葉を待つ。
じぃ〜〜〜っと睨んでくる(見つめているだけかもしれないが、霧子には睨んでいるとしか思えない)マッキーを前に、霧子は口を開いた。
真田美幸選手のファンクラブが結成されたそうです……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……以上」
一拍おいて。
「だぁ〜〜〜〜〜っ! アタシは!? アタシはぁっ!?」
福岡市内に響き渡れとばかりにあらん限りの声で吼え、ジタバタと暴れるマッキー。
とりあえずスタンディングで腕をキメて取り押さえつつ、ラッキー内田が最早一刻の猶予も無しとばかりに、焦燥を顔に浮かべて訊く。
「あの、社長……今月のサイン会枠って、残ってます? 残ってますよねっ!?
さすがの真田も焦りに焦って言葉を引き継ぐ。
「ぜ、是非マッキーに割り当てて欲しいッス!」
無論、ことここに至り社長に異論があるはずもない。
もちろんだ! キャンペーンもやるっ! 我が社の社運をかけてっ!
むしろ、俺の命に関わる。
正直にそう言わなかっただけヨシとしようか。
とりあえず、その場にいた三人をサイン会に送り出した社長は、陣頭指揮を取るべく立ち上がった。
「霧子ちゃん! 非常事態! お願いだから宣伝カーを出して!」
陣頭指揮なのか懇願なのかよくわからない言葉に、さすがの霧子も深刻な表情で頷く。
「はい。この際コストは度外視です。なりふり構ってはいられません」
下手に放置してジムの設備を壊されでもしたら大変だ。
それ以前に、これが原因でマッキーのファイトが荒れることも予想される。
伊達と揃ってEXタッグリーグに呼ばれている今月は、特にそういった事態は避けなければならない。
「選手も総動員! 俺も出るッ!」

かくして始まった、マッキー上戸大宣伝キャンペーン。
福岡市内を、普段は試合の宣伝だとかに使われている専用車両が走り回る。
「マッキー上戸! 皆様のマッキー上戸をよろしくお願いします!」
どこの選挙戦だ。
ファンのみならず、道行く人々は皆、何とも言えない微妙なツラで、宣伝カーの上に立ち声を張り上げる近藤と草薙を眺めていた。
「あと一歩! ファンクラブまであと一歩なのです! 皆様の声援を、どうかよろしくお願いします!」
まあ、SPTがバカをやらかすのは今に始まったことではない。
「どうか、マッキー上戸に清きファンクラブを! お願いしますッ!」
やってる方としては、平穏な生活がかかっているだけに、それなりに必死だったのだが。

「今月も、ひとつのファンクラブが出来なかった。
 これは、終わりを意味するのか? 否ッ! 始まりなのである!
どこぞのアニメで見たよーな軍服が、妙に似合っている葛城。
博多駅筑紫口で、絶賛演説展開中。
「考えてもみるがいい。
 ラッキー内田に比べ、マッキー上戸の人気は三十分の一以下である。
 にもかかわらず今日まで戦い抜いてこられたのは何故か!
 諸君! マッキーのプロレスが正統派だからである!
 マッキーの正統派な戦いを、神が見捨てるはずが無い!
何気にとんでもないコトを口走っている葛城。
彼女は彼女なりに、割と切羽詰っている証拠である。
何か、変なものに汚染されているようでもあるが。
「ファンよ立て! 我々を助けると思って、立てよファン!
 マッキー上戸は、諸君らの力を欲しているのだ!
 ジーク・上戸!
マッキー自身が聞いていないのが不幸中の幸いな演説内容だった。

「この団体、SPTはルチャリブレとシューターをつなぎ合わせて展開された極めてカオスなものである。しかも、私が選手たちに対して行った施策は特になく、選手たちの自主性に任せればよしとして放置していたのである
西鉄福岡駅前。
社長は社長で逆シャ○演説だった。
どうも、汚染源はこの男らしい。
「その結果、諸君らの知っている通り柳生美冬のファンクラブが出来た!
 それはいい!
 しかし、その翌月ラッキー内田のファンクラブが出来!
 近藤真琴のファンクラブが出来!
 伊達遥のファンクラブが出来!
 真田美幸のファンクラブさえ出来た!
 マッキー上戸には出来なかった!
 これが、私の生命を脅かしている現状である!
 ここに至って私は、幾らなんでも命は惜しいのでマッキー上戸のファンクラブが出来るべきだと確信したのである!」
改めて考えてみれば、エライ状況だよなー、と聞き入るファンも思わず頷いてしまう。
「諸君!
 私の生命を繋ぐためにマッキーに投げ殺されないために!
 あと一息、ファンの力をマッキーに貸して欲しい!
 さもなくば――私は、神の元に召されるだろう!
 
マジタノンマス
涙ながらに訴えかける社長の言葉は、ある意味ファンの胸を打ったという。

努力の甲斐あって。
「うぉ〜〜〜! サイコーッ!!」
翌月、後に「SPT史上最も困難な作戦」「リアルで命の危険を感じた」「ファイナルシリーズよりドキドキした」と関係者一同に言わせしめた、マッキー上戸ファンクラブの結成はなったのである。

まさに、無理矢理。