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  SPT流星記  その26 手に入れた翼と刃
 

ドダダダダダダダッ!
轟音を耳にした社長が、何とも言えない微妙なツラで呟く。
「あ〜……久々だなぁ、このパターン」
「そうですねぇ」
秘書机で事務作業に追われていた霧子も、しみじみと同意する。
程なくして。
「社長ーーーッ!」
ドバーーーン、と、ノックもせずにドアを開き現れたのが誰か、言うまでもあるまい。
「真田美幸ッ! ただいま帰国しましたッ!」
「うん、久し振りだから一応言っとくけど、廊下は走らないようにな?」
釘を刺して苦笑しつつ、社長はメキシコ帰りの真田を迎え入れた。
「お帰り。とりあえず無事みたいで安心したよ。んで、どだった? 修行の方は?」
「ハイッ! 自分、色々勉強させてもらってきたッス! 修行に行かせてもらって、感謝してるッス! ホント、ありがとうございましたッ!」
社長の問いに、満面の笑みで答える真田。
そこへ、漸く空港まで真田を迎えに行っていたRIKKAが顔を出す。
「…………ハァ……」
疲れた表情でため息をつくRIKKA。
まあ、このテンションの真田を乗せての空港からSPT事務所までのドライブは、割と疲れるものであろうことは想像に難くない。
「や、おつかれさん。悪かったね、負傷休暇中に」
ねぎらう社長に、RIKKAは軽くかぶりを振って答える。
手の空いた車持ち(というより免許持ち)がRIKKAしかいなかったのだから仕方ない。
まあ、これも師匠の務めと諦めてもらうおう。
「早く修行の成果をお見せしたいッスね〜! 次の試合、いつッスか?」
すぐにでもリングに飛び出しそうな勢いの真田に苦笑しつつ、社長は答える。
「明後日から九州シリーズだよん。ちなみに、今月はSPT初のリーグ戦シリーズになるから」
「へっ……リーグ戦?」
突然のお達しに、目をぱちくり瞬かせる真田。
「そ。レイン・スナップ杯シングルリーグ、略してレイスナ杯」
ニコニコしつつ応じる社長に、霧子がため息をつく。
「あんまり、気にしないでもいいですよ? いつもの社長の思いつきですから。トーナメントやったからにはリーグもしないと、なんて……子供じゃないでしょうに」
「いつもいつまでも少年のハートを、がポリシーなもんで」
呆れ顔の霧子に、にへらっ、と笑って悪びれず応じ、社長は真田に向き直る。
「んで、真田もリーグに組み込んでるから。負傷欠場のRIKKAと、あと伊達と斉藤が不参加だけど」
「なんと……それは、張り切らないといけないッスね!」
やる気充分の真田であったが。

「うむぅ〜……どうも、イマイチっすねぇ……」
結論を言えば、レイスナ杯の真田はパッとしなかった。
特に遅れをとっているというわけではないが、いつぞやジョーカー・レディが心配したように、真田以外の選手も着実に実力をつけていたのだ。
現在勢いのあるマッキーと、さすがの貫禄の柳生、そしてAACヘビー王者である伊達を別にすれば、他はどんぐりの背比べといった塩梅なのである。
まあ、AAC修行以前の真田が遅れをとりがちであったことを考えれば、周囲のレベルに追いついただけマシと言えなくもなかったが。
しかし、やはり海外修行まで敢行したからには、何かしら目に見える成果が欲しいのも事実。
「むうぅ〜……」
唸って首を捻るが、どうにも思いつくことがない。
AAC修行の成果といえば、ムーンサルトプレスをはじめとする空中殺法の習得というものが挙げられなくもないのだが……
しかし、AACマットでムーンサルトプレスと言えばチョチョカラスの代名詞であり、真田のそれは完成度でもインパクトでも到底チョチョに及ばない。
空中殺法を得意とするRIKKAもムーンサルトプレスを繰り出せなくもないのだが、チョチョカラスと比較されることを避ける目的もあってか、変形シューティングスタープレス"流星落"を習得し必殺技としているほどなのだ。
ムーンサルト=チョチョの構図は、それほどインパクトがあり、そして周知されていることであった。
「ん?」
そこまで考えて、ふと、気がついて、真田は、ポン、と手を打った。
「そうッス! 必殺技ッスよ!」
チョチョカラスにはムーンサルト。
RIKKAには無明蹴、流星落。
柳生であれば雷神蹴、雷神槌撃蹴。
伊達のフェニックスコンボも、既に代名詞になるほど認知された。
系統としては同じコンビネーションキックでも、斉藤は空手の型を前面に押し出した飛燕脚で差別化を図っている。
ここはひとつ、真田といえばコレ、という必殺技を会得してはどうだろう?
もちろん、AAC修行の成果を前面に押し出し、真田ならではのモノにしなければならない。
「ぃよぉ〜〜〜っし! そうと決まれば、早速特訓ッスよ! 社長〜〜〜〜〜ッ!」
思い立ったが吉日と、オフィスに向けて駆け出す真田。
毎度のことだが廊下を走らないように注意されたり、御馴染みの伊達ビジョンで、じとーっ、と睨まれることになったりするのだが、まあ、それは本筋と関係ないのでおいておく。

「やっぱ、真田と言えば打撃でしょ」
真田から相談を受けた社長は、あっさりと言った。
「打撃ッスか……」
AAC帰りをアピールしたい真田としては、やや不本意そうな難しい顔で呻いてしまう。
「うん、打撃。蹴りとか」
にへらっ、と笑って社長は続けた。
「伊達とか近藤とか、タッパのある選手の蹴りもキレイでいいけどさ。真田の、その体格でガッツンガッツン打ち込んでくファイトも見応えあるよ」
真田は特に小柄というわけでもないが、やはり伊達や近藤に比べると小さく見える。
さりとて見栄えしないかといえば、一概にそうとも言い切れない辺り奥が深い。
決して恵まれた体格とは言えない真田が打撃戦を志向すれば、自然と懐に斬り込んでのインファイトが主体となる。
真田の吶喊は、それはそれでAACのみならずSPTにおいてもファンの評価は高かったりするのだ。
「まあ、どーしてもって言うんなら、空中殺法と掛け合わせてみてもイイかもね。真田も、今やRIKKAに次ぐ空中殺法使いなワケだし」
何の気なしの社長の言葉。
しかし、真田はそれでピンとひらめいた。
「それッス! 思いついたッスよ、必殺技ッ!」
必殺技、とか、秘密兵器、とかいう単語が大好物の社長、キュピーン、と目を輝かせて立ち上がる。
「おお、そうか! んじゃ、早速特訓だ!」
「ハイッ! やるっすよ〜〜〜っ!」

発想としては、単純なものだ。
真田には、それほど身長がない。
伊達のようにスラリと伸びる長い脚は、望んでも得られない。
しかし。
「行くッス! しっかり支えててくださいよ〜、社長ッ!」
「うむ、来なさい!」
真田には、AACで鍛えたバネがある。
不慣れなルチャに、連日必死で喰らいついてきた経験がある。
それを活かせば……!
「だあぁぁーーーッ!」
気合一閃、真田が平常よりも高く吊り下げられたサンドバッグに向かって跳んだ。
グン、と。
真田の爪先は彼女の身長を遥かに超え、サンドバッグの頂点を叩く。
「うぉっとぉっ!?」
サンドバッグを押さえていた社長が、思わず弾き飛ばされそうになるほどの威力。
その打点は、長身の伊達やマッキーの頭部すらも、余裕で超えるほどの高さ。
魅せ技としても、申し分ない。
確かに真田ならではの、ジャンピング・ハイキック。
「出来た……! Z兵器ッ!
会心の笑みを浮かべる真田に、社長もノリノリで追随する。
Z兵器! イイね〜、早速マスコミとかWebサイトとかで広報しよう」
「ハイッ! 正式名は、また考えないといけないッスけど。とりあえず、ジョーカー師匠に鍛えてもらったおかげだから……」
ジョーカー師匠のおかげだからZ兵器だよなっ! とか思う真田。
「うん、ジョーカーちゃんのJZ兵器がどう繋がってんのかはよくわからんけど」
「は?」
ジョーカーの綴りはJOKERだ、バカモノ。
イマイチ、日本に帰ってきても"トンタ"が抜けきっていない模様。
「んで、Z兵器のZとは?」
「は、はは……えっと……」
さすがに、第二の師匠のリングネームの綴りを素で間違えました、とは言い辛く、あれこれ考え始める真田。
Z、Z、ザ行の何か……ザ、ザ、ザァ……ザ、ザン?
ザンボッ……はマズい。何かが。
ザンバのリズムで……それ、サンバ。
「ザ……ザン、バ……」
ついつい漏らした言葉に、社長が喰いつく。
「ザンバ? おお、斬馬刀のザンバか!」
「それッス!」
「なるほど! 柳生の日本刀イメージに対抗して豪快な斬馬刀というのはヨイぞ!」
「ついでに"雷神"蹴に対抗して"ジン"もつけるッス!」
「斬馬"ジン"? "刃"? いやいや、疾風迅雷の"迅"で行くか!」
それッッス!! 必殺"斬馬迅"、完成ッスよーーーッ!」
とめどないハイテンションのまま、突っ走る二人。
後に真田の代名詞ともなる技の名前は、こうして割となし崩し的に決定したのであった。

ともあれ、斬馬迅、習得。