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  SPT流星記  その21 嗚呼、ファンクラブ〜とその周囲〜
 

「何の話でした、柳生さん?」
オフィスからジムに戻ってきた柳生を目聡く見つけたラッキーが問う。
選手会長が不意に呼び出されたとあっては、気にならないはずもない。
柳生は、少しだけ困ったような照れ笑いを浮かべて答える。
「ああ、うん……割と、個人的なことだ。特にお主らに何かあるわけではないぞ」
「個人的なこと? 何かあるのか?」
柳生の言いようにかえって変に思った斉藤が重ねて問うが。
「い、いや、たいしたことではない。気にするな」
彼女にしては珍しく、歯切れ悪く応じる柳生。
その様子を邪推したRIKKAが、微妙にいやらしい笑みを浮かべて言う。
「……ふむ……色事……?
これには、さすがに柳生もピシャリと言い返した。
「いかにRIKKA殿とはいえ失敬な! ファンクラブが出来ただけだ!」
語るに落ちた柳生、宣言してから真っ赤になる。
「い、いや、その……まあ、それだけの知らせであるから、気にすることはないぞ、うん」
誘導尋問に成功したRIKKAは、何だそんなことか、と肩をすくめて練習に戻る。
「びっくりさせるなよ。何事かと思ったじゃないか」
斉藤も、苦笑混じりに言って安堵のため息をつく。
「それは朗報ですね。おめでとうございます」
草薙の祝福に、柳生は照れ隠しにひとつ咳払いをして応じた。
「うむ。ファンの期待に応えられるよう、引き締めて掛からねばならぬと思っておったところだ」
その態度に、近藤などは苦笑してしまう。
「もっと素直に喜んでもいいんじゃないですか? これまでのファイトが認められたってことなんだし」
「あー、うん。嬉しく思わぬわけではないが……しかし、躍り上がって舞い上がる私など、想像したくもないからな
少しばかり困惑した顔で肩をすくめる柳生。
「なるほど。言われてみれば、想像し難い
妙に納得する葛城に、その反応はそれで失礼な気もするが、などと自身の発言を棚に上げて思いつつ、柳生は話を切り上げた。
「用件はそれだけだった。皆、気にせず修練に戻れ」
柳生の言葉をきっかけに、何事かと柳生の周囲に集まっていた連中がそれぞれ練習を再開する。
それで、いつも通りのジムの風景に戻った……のだが。
ごく一部、例外はいた。
そのうちの一人、マッキー上戸が心底羨ましそうに唸る。
「くぅ〜、いいなー。アタシのファンクラブはまだかな〜」
「確かに。私たちジューシーペアのファンクラブがないなんておかしいわね。アピールが足りないのかも」
常日頃ならマッキーの暴走を止める立場にあり、またその役目を的確にこなしているラッキー内田も、今回ばかりはマッキーに同調した。
「となれば!」
「ええ、サイン会ね。社長に掛け合いましょう」
頷き合い、伊達の両脇をガッシと固めるジューシーペア。
妙なところのチームワークもバッチリである。
「あの……何で、私……その」
いきなり拘束されて話の流れが見えない伊達が困惑するが。
「エース伊達にファンクラブがないのもおかしいでしょ? だから誘ってるの」
ラッキーの解説に、伊達は心底迷惑そうな顔をした。
正直、サイン会はあまり得意ではない。
ファンサービスの重要性は理解していても、どうしても人前に出るとアガッてドモッてしまうのである。
「わ、私は……別に……」
やんわり断ろうとする伊達であったが。
「いやいや、やっぱ団体のエースを張ってる以上はな! 伊達がいねーと始まんねぇって」
調子よく持ち上げるマッキー。
単に、社長を説き伏せる材料として必要、とも言うが。
かくして、この月のサイン会はシングルとタッグのエースが揃うという、非常に豪華なものとなったのであった。

「ありがとうございます。頑張ります」
通常比1.5倍ほどの笑顔でファンと握手するラッキー。
普段から丁寧で奥ゆかしいと評判の彼女だが、今日はいつもに増して丁重にファンサービスに努めている。
奇をてらわず、基礎からの好感度アップを狙った正攻法だ。
もっとも、わざわざサインするファンの目が届くような位置に、RIKKAや斉藤、果ては先頃発行されたばかりの柳生のファンクラブ会誌なんぞが置かれているという、半ばサブリミナル的な手法も併用していたりするのだが。
「ど、どうも……」
明らかに乗り気ではない伊達。
まあ、視線を逸らしてポソポソ喋るのが常の伊達であるから、いつも通りと言えばいつも通り。
それでも人気のエースであるわけで、かなりの数のファンが押し寄せている。
中には、これぞ萌え、などと、どっかの社長のような感想を浮かべているヒトたちもいたりして。
ちなみに、ラッキーから"ファンクラブを連想させるようなモノを持ってきなさい"と言い渡されていたため持ち込んだのは、相談したらその場で社長が作ってくれたトランプのクラブのカードを羽にした卓上扇風機(ファン)。
その辺の売れない芸人並みの駄洒落である。
しかも、極めてわかりにくい。
いや、社長の感性なんだけどね。
「やっ! ありがとうなッ!」
とりあえず、勢いに任せているマッキー。
握手するファンの腕を千切らんばかりにブンブン振り回しているあたり、既に暴走気味であることが見て取れる。
だからと言って人気薄かと言えばそうでもなく、これはこれで相当な数のファンを集めていたりするのだからわからない。
なお、マッキーの後ろにデデンと鎮座しているのは"保存版ザ・ファンクス写真集"
それは、ファンク・ラブだ。
何か色々間違っている気もするが、三人三様(約一名は嫌々ながら)ファンクラブ設立目指して頑張っていた。
「ええ、ファンレターは拝見させていただいてます。私たちはファンクラブが無いので直接事務所の方に来まして仕分けしてもらった後で手にするんですけれど」
「そうそうっ! ファンクラブ無いからな! RIKKAさんとか斉藤さんとか、あと今月から柳生さんとかはファンクラブ毎なんで別枠なんだけど。アタシたちはファンクラブ無いもんでね!」
わざとらしいにも程があるジューシーペアの掛け合い。
真ん中に挟まれた伊達は、ひたすら迷惑そうに視線を右往左往させていた。

そして翌月。
努力の甲斐あって。
ラッキー内田選手のファンクラブが結成されたそうです」
ニッコリ笑って告げる霧子に、愛想笑いを浮かべたマッキーが問う。
「あ、あの〜、アタシは? ね?」
霧子ちゃん、斬子モードでバッサリ斬り捨てる。
「ありません」
「まあ、こればかりはファンの声だから。仕方ないんじゃない?」
コーヒーなんぞすすりながら、いけしゃあしゃあというラッキー。
プチン、と。
マッキーの中で何かが弾けた。
「チクショーッ! サイン会だ、サイン会! 社長ッ! サイン会に行かせろーっ!」
「あ、ああ……どぞ……」
あまりの勢いに吟味もせずに頷く社長。
まあ、サイン会は毎月やってるわけだし、構わないと言えば構わないのではあるが。
「よし! いくぞ、伊達! それと近藤!」
首尾を確認しにいこう、とジューシーペアに無理矢理事務所まで連れて来られていた伊達と、たまたま用事があってその場にいた近藤に声を掛けるマッキー。
「わ、私は、もう、いい……」
「よくねぇ! 悔しくないのか!」
イヤイヤする伊達を右腕に捕え。
「なんであたしまで巻き込むのよ……」
「そこにオメーがいるからだ!」
あからさまに迷惑そうな近藤を左腕に捕え。
「ここで引き下がれるかーーーっ! 見てろよっ、ラッキィーーーーーッ!!」
溢れんばかりの気合と共に、事務所を後にするマッキー(と巻き添え二名)。
残されたラッキーは、勝者の余裕をもって呟く。
「ふ……弱い犬ほど、って言うけれど。負け犬の遠吠えね」
そんな様子に頭を抱えながら、社長が問う。
「ね、霧子ちゃん。マッキーって、そんなに人気ないんだっけ?」
霧子は、パソコンのキーボードをパチパチと叩いて首をかしげる。
「いえ、ラッキー選手と大差ないはずなんですけど……おかしいですね? 私のリサーチミスでしょうか?」
相変わらず謎ではあるものの信頼度抜群の霧子情報でも、コトの真相は闇の中だった。

これも、人徳???